研究課題/領域番号 |
18K18527
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石丸 恵利子 広島大学, 総合博物館, 研究員 (50510286)
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研究分担者 |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (50569283)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 同位体考古学 / Sr-Nd-Pb同位体分析 / 土器 / 製作圏 / 流通圏 / 弥生時代 / 縄文時代 |
研究実績の概要 |
本研究は、土器の製作地を具体的に明らかにするため、ストロンチウムなどの安定同位体分析を用いた新しい土器の胎土分析に挑戦し、製作圏や流通圏の実証や社会構成史の復元を行うことを目的としたものである。 当初の研究計画では3つの地域を対象に、それらの地域での状況を1年ごとに検討する計画であったが、研究開始時に研究メンバー全員で再度議論を行い、まずは分析方法の有効性を確認するための定性分析を実施してから、各地域での研究の方向性を検討することとした。 本年度は、坂出市、東大阪市、東広島市で各1回の研究会(資料調査および検討会)を実施し、分析対象に設定した2地域にまたがる東大阪市と京都市で資料のサンプリングを実施した。資料は、亀井遺跡(大阪府)の弥生土器と聖護院川原町遺跡(京都市)の縄文土器であり、考古学的な資料観察によって「生駒西麓産」とされる土器と「非生駒西麓産」の土器をそれぞれ選択し、それらの資料計19点のストロンチウム(Sr)-ネオジム(Nd)-鉛(Pb)の安定同位体比を測定した。 分析の結果、「生駒西麓産」の特徴を備えた10点と「非生駒西麓産」土器9点では、Sr-Nd同位体比が異なる傾向が示された。前者は生駒斑レイ岩の同位体比とおよそ符合し、それに由来する可能性が認められた。後者は他の花崗岩や堆積岩由来の材料が混ざったものからなることが示唆された。今後、原材料と考えられる堆積物や岩石、あるいは遺跡周辺の原土(粘土)の同位体比を測定するなどの更なる考察が必要ではあるが、「生駒西麓産」と「非生駒西麓産」土器胎土の同位体比が異なることが明らかとなった。 これらの分析結果の一部については、次年度開催の学会で発表する予定(発表受理済み)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、設定したテーマ3つのうちの最初のテーマについて、資料の検討、資料調査(実見とサンプリング)、土器資料の同位体比測定を実施する予定であったが、分析対象遺跡を一部変更して資料調査及び同位体比の測定を行った。 また、資料の測定において、共同利用機器の予約の都合上、年度末の測定となったため、分析結果について、本年度中にはメンバー全員での十分な考察を行うことができなかった。年度内にその分析結果をみて、その他の分析(蛍光X線分析および砂粒分析)を外部委託する計画であったが、その部分が次年度に繰り越されたため、当初の計画よりやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度早々(5月)に研究メンバー全員による研究会を開催し(日程調整済み)、今年度得られた分析結果について議論して評価と課題を抽出し、次年度以降の進め方を再検討する。分析結果の一部については、次年度6月の学会で発表する(確定済み)。また、初年度実施できなかった蛍光X線分析および砂粒分析の外部委託を早い段階で実施し、同位体分析の結果との比較検討を行う。 さらに、初年度分析した遺跡周辺の原材料と考えられる堆積物や岩石、原土(粘土)などの採取および同位体比の測定、また、設定した3つのテーマのうちの別の地域(香川)の出土土器資料の同位体比の測定を主体に進める。年度末は測定機器が混み合うことを見込んで、できるだけ早めに準備を進める。 なお、分析用遺跡の資料調査(2回)と現地粘土・岩石の調査(1回)は、メンバーが分担して実施し、同位体分析は分担者の所属機関の装置で随時実施する。また、研究メンバー全員による分析結果の考察のための研究会(3回:資料調査やサンプリング時に同時に実施し、旅費を節約する)、年度内の論文投稿(1件)、講座などの成果発信(年度後半に1回)を計画している。次年度分析を実施した結果については、初年度の結果を含め、最終年度に2回の学会発表ができるように、メールを活用するなどして積極的な情報交換をして議論を深め、計画的な調査と分析に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた外部委託のための資料の選定が終了せず、それらの経費を年度内に納品することができなかったため、執行せず未使用額が生じた。次年度早々に研究会を設けることになっており(日程調整済み)、本年度予定していた外部委託分析は早い段階で執行する計画である。 また、分担者の一人に次年度使用額が生じたのは、今年度の資料調査の対象遺跡を変更したことに伴い、分担者在住地域が中心となったためで、次年度は遠隔地での調査が多くなる計画であることから、滞りなく執行できると考えている。
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