研究課題/領域番号 |
18K18537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤岡 洋 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (80723014)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 動的映像分析 / 西北タイ歴史文化 / 8mmフィルム映像 / 映像フィールドワーク / スキーマレスデータベース / API / Node.js + mongodb / デジタルアーカイブ |
研究実績の概要 |
実施2年目となった本年度の実績を、大きく次の三点から述べる。 第一点は、可能な限り聞き取りを中断することなく情報の収集と整理を行うプログラム開発である。動的映像の再資料化には、基本メタデータ(記録日時、記録場所、トピックス等)を意識しつつ聞き取りを行うことになるが、現場ではほとんどの場合、映像と対話は同期せず脱線を繰り返す。本研究はこの脱線から生まれる情報も将来活用可能なデータとして保存したいと考えてきた。そこでまずショット映像一覧と視覚化した調査行程表だけを用いたデジタルに依拠しない聞き取りを行い、次にその観察結果から、映像を可能な限り停止させずに聞き取り=対話/情報収集を同時に行えるプログラムを立ち上げた。 第二点は、博物館と映像制作者との連携体制の確立である。初年度と上記第一の実績をもって、本年度から西北タイ歴史文化調査団蒐集資料を網羅的に所蔵する南山大学人類学博物館との協定を結んだ。計4回(内3回は南山大学人類学博物館、1回は東京大学東洋文化研究所)資料調査と意見交換会を行った。また、6月には秋田公立美術大学でのセッションを機に、ドキュメンタリ映画監督との知己を得、脳内編集ないしカメラアイ、という映像記録者の意識下に思考が存在するという指摘を受け、それを論考にまとめた。本研究代表者とこの両者は本研究資料を介して、「収集保存/博物館 - 応答/本研究 - 創作/映像製作者」の関係が構築されつつある。 以上の実績をもって第三点として、デジタルアーカイブ学会ワークショップの企画し、申請が採用されたことである。残念ながら2020年4月開催予定の本企画はCOVID19の影響で延期されたが、同年10月には開催の見込みである。これらの成果を踏まえ、今後論文執筆を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度 Web API スキーマ可変型ツールの開発サイクルに目処がたったことで、実際にアジャイル的開発を試行した。前年度のツールは標準的なデータベース入力編集機能を元に構成していたが、計6回に及ぶプログラムを介さない聞き取り調査の結果、従来の標準的なツールは様々なサポート機能を追加していってもデータベース作成が優先されてしまい、必ずしも聞き取り調査から得られる豊かな情報がこぼれ落ちていくことが判明した。そこで、情報の入力・編集・整理作業と、聞き取り調査を別々にドライブさせながらも、動的映像ショットの変化は同期追尾するツールを WebSocket (socket.io) を使って開発した。これにより聞き取り中は最低限度の中断で、オンタイムで最低限のメタデータを整理しつつも、メタデータに範疇化されない情報はハッシュタグとして記録して、繰り返しデータを蓄積、整理、拡張していくことが可能になった。また未整理タグとして記録されていく情報も漸次的に増加していき、それによって情報の濃淡が明確になり、トピックスとしての出来事が自ずと浮き彫りになっていくという成果も生まれた。とはいえ、本研究としては研究対象資料全体のシーン、シーケンス確定も完成させなければならない。これにより最終年度へ向けての課題も明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、資料全体の情報粒度を確定することを目指しつつ、前年度と今年度の研究成果を敷衍し映像の切れ目に存在しながらも埋もれている膨大な情報、具体的には大学博物館で未整理のまま保存されている静的映像や調査団員の日誌それに学術研究文献、を最大限取り込んでいく計画である。また、今年度新たに見出された可能性も具体化していく。具体的にはまた本年度 WebSocket を利用しながら聞き取り調査を遠隔地と同期的に行える可能性を検証する。 年度がすすむにつれ、本研究手法に対して関心を示す研究者が学会やクローズドな研究会などで徐々に現れはじめている。調査団が記録した動的映像が50年後の現在にも有用な情報となるよう、本研究の試みを積極的にオープンな研究発表や論考などを通して省察しつつ、広く批判検討を受ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】本年度末は、次年度開始当初、4月に行われる学会ワークショップ主催に向けて、愛知県や秋田県など国内の研究者、存命中の元調査団員数名を招聘するための使用を予定していた。また、研究協力者である元調査団員も90歳を超えており、COVID-19 禍の影響で年度末の2月より聞き取り調査が中断している。研究協力者自宅にはインターネット回線もなく、電話、ICレコーダー録音、文字起こしデータで研究代表者とのやりとりを進めている。これらワークショップ開催に伴う招聘と、研究協力者との協働作業不足分を次年度に行うこととした。 【次年度使用額の使用計画】引き続き行う聞き取り調査と南山大学人類学博物館での調査に加え、主催ワークショップ(デジタル・アーカイブ学会)の準備に伴う諸経費として使用する計画である。
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