本研究の目的は、小規模な生業社会に生きる人びとを対象として、人びとの生きる糧である文化(知識・技術)の伝達・継承・変容・拡散のパターンを、生物遺伝学の系統解析で用いられる統計学的な方法を応用することによって実証的に明らかにすることである。本研究は、文化を人から人へと伝達・継承される情報ととらえ、個人および集団の持つ知識のバリエーションをデータとして、生物学における系統解析の手法を応用することによって、個々の文化要素の伝達・変容・拡散に「親から子への垂直的伝達」「地理的近接性に基づく水平的伝達」「生態学的要因による適応的選択」という、異なる伝達経路がそれぞれどの程度寄与しているのかを具体的に明らかにすることを目的とする。 本年度は、エチオピアとラオスで現地調査を実施することができ、とくにエチオピアでは蜂蜜採集活動の観察とあわせた知識の継承に関するデータを収集し、森の変容にともなう知識動態の変化および持続を明らかにするためのデータを得ることができた。これによって、前年度までに進めた解析データとあわせて成果を得られる見通しが得られた。また、ラオスでの現地調査において、焼畑休閑林がユーカリ植林や水田造設などによって変容していく過程での知識のゆらぎについてのデータを補完することができた。 以上の結果をまとめ、エチオピアについては論文執筆を進めるとともに、ラオス調査に関しては学会誌に論文を公表した。
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