研究課題/領域番号 |
18K18543
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 特任教授 (00203208)
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研究分担者 |
河合 明宣 放送大学, 教養学部, 特任教授 (90195024)
奈良 由美子 放送大学, 教養学部, 教授 (80294180)
石井 祥子 名古屋大学, 減災連携研究センター, 研究員 (30398359)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 遠隔教育 / モンゴル国立大学 / ブータン王立大学 / 遊牧 / 山岳地域 / レジリエンス / コンテンツ制作 / スタジオ整備 |
研究実績の概要 |
遠隔教育による高等教育の普及は、遊牧民や山岳地域の住民が現地で伝統的な生活を続けながら高等教育を受けることを可能とし、地方からの人口流出と首都への一極集中の抑制に一定の効果をもち、地域リーダーの現地養成を可能とし、地方の活性化・安定化に資する。また、現下のCOVID-19感染症パンデミック状況においては、遠隔教育の有効性とニーズがさらに高まっている。本研究は、特に、モンゴル国立大学、ブータン王立大学と連携し、遠隔教育推進に協力するとともに、地域に適合した遠隔教育モデルの構築を目的としている。 モンゴル国立大学では、従来、映像を学内LANを通じて視聴する仕組みはあったが、講義をネットで配信するには至っていなかった。しかし、同大学は、基本計画に遠隔教育推進を明記し、2018年度に新スタジオを設置した。そこで、放送大学は同大学と包括協定を締結し、技術スタッフと共に新スタジオの整備・機能強化、コンテンツ制作技術向上に協力し、さらに、防災に関する映像コンテンツの共同制作を進めた。 一方、2019年度にモンゴル南部のゴビ地域で現地調査を実施したところ、スマートフォンなどの普及が進み、遠隔教育のニーズが高いことが明らかとなった。そうした遊牧社会の状況については、放送大学研究年報(2020年度)で報告した。 ブータンでは近年、国家プロジェクトとして情報化が推進されてきたが、大学の遠隔教育システムまでは整備されてこなかった。そこで、放送大学はブータン王立大学と大学間協定を締結し、GNH(国民総幸福量)などをテーマに、コンテンツの共同制作等を進めてきた。その活動に関しては放送大学研究年報(2020年度)で報告した。 なお、本プロジェクトは2019年度に終了の予定であったが、COVID-19により現地調査が不可能となったため、助成金の一部を2020年度、さらに2021年度に繰り越し、継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、とくに実践面で予想以上の成果を得ることができた。モンゴル、ブータンの両国において、遠隔教育への期待とニーズが極めて高いことがその背景にある。モンゴル国立大学では、2018年度に撮影スタジオが新設されたが、一部の機材の不足と担当スタッフのスキルに課題があった。そこで、放送大学の専門スタッフの協力を得て、そのスタジオの機能強化のための協力が実現し、同大学の遠隔教育推進のために大いに貢献することができた。さらに、遠隔教育による防災の普及のためのコンテンツを共同制作してきた。モンゴル非常事態局(NEMA)とも共同し、防災専門家を講師として「地震災害」、「ゾド(冷害・雪害)」等をテーマとする講義の制作を行った。モンゴルでは防災教育が大学の必須科目となっているため、教育コンテンツに防災・共生等のテーマを組み込むことにより、実質的な効果が期待できる。モンゴルでもCOVID-19パンデミックは深刻で、遠隔教育のニーズはさらに高まっているが、このような実践は、モンゴルにおける遠隔教育の普及への大きな貢献の第一歩となった。 ブータンにおいては、王立大学シュラブツェ・カレッジにメディア学科が新設されたが、スタジオは未整備である。そこで、ロケによるコンテンツ制作を共同で実践した。 以上の研究により、当該諸国における遠隔教育の発展に実践的に貢献すると同時に、現状と課題・ニーズなどを把握し、地域適合型遠隔教育システムの構築の基礎を確立できた。 ただし、2019年度の最後に予定していた現地調査が不可能となったため、助成金の一部を繰り越した。その現地調査の目的は、今後の研究展開として、遠隔教育モデルをさらに拡張、精緻化するため、ネパールの研究者をモンゴルと日本に招へいし、共同研究を行うことであった。COVID-19により2020年度中も現地調査ができなかったため、2021年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当該地域は災害リスクが高い地域でもある。モンゴルには世界最大の活断層があり、数十年の間隔で大地震が発生している。従来の遊牧生活では被害は限られていたが、1990年の市場経済化以後、首都ウランバートルへの人口集中と高層ビル化が進んでおり、災害への脆弱性が高まっている。そこで、災害レジリエンスの強化に資する遠隔教育システムのモデルをさらに構想していく。 COVID-19によりモンゴルでも遠隔教育の必要性はますます高まっているが、教員のスキル、専門スタッフ不足等、課題も多い。そこで、2020年度に、モンゴル国立大学との間で、リモートによる教員スキル向上の支援方法を検討し、それを2021年度に実施する予定である。 より長期的な展望としては、本研究を発展させ、より広く開発途上国での適用が可能な、当該地域の特性(地理、文化、エスニシティ、政治経済社会的状況等)に適合した遠隔教育モデルを追及したい。 最重点地域は引き続きモンゴルであるが、モンゴル国立大学で進めてきた遠隔教育の本格的運用に協力すると共に、そのフォローアップにより、遊牧地域における遠隔教育の課題や効果を明らかにする。また、ブータン王立大学との協定に基づき、これまで推進してきた教育コンテンツ制作の試行を継続・発展させ、山岳地域における遠隔教育の課題と効果を検証したい。 より広く適用可能なモデルの構築のためには、他地域への展開も重要である。そこで、ネパールにおける遠隔教育の可能性・課題等の検討を実施したい。さらに、将来的には、南アメリカで先進的な遠隔教育を進めるブラジル・マトグロッソ連邦大学との共同(すでに大学間協定を締結し、日本とブラジルの学生を対象とする「多文化共生」をテーマとした遠隔教育の共同事業の実績がある)を基に、南米の先住民社会における遠隔教育、また遊牧・山岳地域を擁する東ヨーロッパとの比較も視野に入れて研究を展開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月(2019年度末)に、今後の研究展開のため、ネパールの研究者を交えた共同研究を実施するため、モンゴルでの現地調査を予定していたが、モンゴルでのインフルエンザ大流行、中国でのCOVID-19大流行によりモンゴル全土で非常事態態勢がとられたため、現地調査を延期せざるを得なくなった。2020年度においても、現地調査の実施を計画していたが、年度末まで状況が改善せず実施は不可能となった。2021年度においては、状況が好転した場合には、予定していた現地調査を実施したい。状況がどうしても好転しない場合は、研究の展開(研究対象の拡大による遠隔教育モデルの拡張・精緻化)の方針に沿って、調査地の変更、国内での研究等を検討し、調査研究を推進したい。
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