地震や洪水といった大規模災害を引き起こす自然現象の規模や発生頻度を、地形・地質に記録された過去の記録から解読する手法を探究するため、青森県八戸市の馬淵川下流域における沖積平野(八戸平野)をはじめとした沖積平野で、沖積層、古地震(変動地形)、河川地形に関する総合的な調査・解析を行った。5 mメッシュの数値標高データを用いた地形解析と空中写真判読を組み合わせた地形判読に基づいて、従来、曖昧な基準に基づいて区分されていた八戸平野の沖積平野面を、河川氾濫や河道変化の痕跡が明瞭な低位面とこうした痕跡が不明瞭な高位面に段丘面区分した。また、野外における沖積層試料の採取、および採取した試料の室内分析に基づいて、汎世界的な海水準上昇に対応して陸側に移動してきた砂の高まり(バリアー)に閉ざされた水域を河川が埋積してきたことを明らかにした。 これらの河川地形、沖積層研究の視点に加え、過去の海面高度から地殻変動を解読する変動地形の視点も加えて当該平野の地震や洪水に関連した自然現象の痕跡の解読を行った。その結果、以下のことが明らかになった。 1)沖積平野の段丘化が当該平野よりも広域で生じた海面低下によって生じた。 2)沈降地域の沖積平野の発達過程と1)の八戸平野の段丘化の比較および、海面高度付近で堆積した堆積物の標高と年代からは、八戸平野の最近1万年間の地殻変動は少なくとも沈降傾向にはない。 上記1)の成果は、洪水氾濫、河道変化などの河川のふるまいが、海面高度の変化によって変わり得ることを示し、2)の成果からは海溝型巨大地震の繰り返しとそのメカニズムを知るための拘束条件となる情報を取得できたと言える。このように、本研究では、沖積層を媒体として、河川氾濫や巨大地震といった大規模災害を引き起こす自然現象の履歴を解読する上での有意義な知見を取得することができた。
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