研究課題/領域番号 |
18K18545
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
渡部 展也 中部大学, 人文学部, 准教授 (10365497)
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研究分担者 |
西江 清高 南山大学, 人文学部, 教授 (10319288)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 地域ネットワーク / 集団の形成過程 / 考古学 / 中国南方 / GIS / ABS / シミュレーション |
研究実績の概要 |
前年度に続き、遺跡情報の入力を進めるとともに、雲南省、広東省、福建省の一部についてCORONA衛星画像の整備を行い、情報基盤のさらなる充実をはかった。また、標高データから水文シミュレーションにより作成した推定流路と、衛星画像に対する演算により抽出した現流路(一部地域)の2種類の河川ネットワークのデータを作成した。河川を中心とした水上交通による移動の重要性は、新石器時代の中国南部の遺跡分布からも示唆されるところであり、河川データはこれらの分析に利用する。これまで整備してきた情報基盤により、新石器時代の遺跡分布と「関所」「故道」(これらは主に歴史時代の情報)などの分布を重ね、陸路と水路の両面から地域間のネットワークの基本構造を検討した。 なお、昨年度の分析で、広大な対象地域すべてをABSにより処理する事は困難であることが判明したため、全体の地域間の連携については広域を結ぶ交通路(実際に当時「道」が整備されていたという事ではなく、行き来の際、中心的に用いられたある程度幅のある大まかなルートを想定)に限定して移動が行われることを仮定し、各地域間のつながりを表現した。具体的には、対象地域間の接続を評価するため、交通路に陸上・水上・両方を用いるシナリオを設定し、地形の特徴量のパラメータを変えながら地域間を結ぶ最適ルートの絞り込みを行った。推定ルートでつながった各地域内における集団形成と情報拡散については、当初の予定通りABSで分析する形で行った。このスケールでは、集落分布パターンと中心的な地域の形成過程、固定的な交通路の出現条件等を想定したモデルを策定し、ABSをもちいたシミュレーションを実施した。こうした分析と並行して、接触頻度や情報伝達確率、分布密度などのパラメータの感度やそれらのバランスが結果に及ぼす影響についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースに格納する遺跡分布データについては想定したよりも時間を要しており、完成に至らなかった。ただし、福建省、浙江省、広東省等沿岸の主要地域および雲南省、湖南省の一部等、つながりのある内陸地域も完成しつつあり、分析を行う上で概ね支障は無い範囲まで整備することができた。衛星画像の整備範囲も拡大しているほか、水上交通および地理的バリアに関わる河川流路についてもデータを作成した。データがかなり揃ってきたことで、これまでに整備した情報を総合し、地域の交通ネットワークの基本構造(陸路の候補と河川によるつながり)を具体的に概観する事が可能となった。 また、前年度に課題となった広大な範囲にわたる対象地域全域の分析処理方法についても、地域間スケールを最適ルート分析で、地域内スケールについてはABSで分析する方法を試行し、有効性を確認する事ができた。地域におけるABSシミュレーションについては、前提条件を数パターン設定すると共に、空間構造に応じた情報の拡散や集積過程の変化を確認した。 以上の通り、最終的な分析に向けてデータやパーツは揃いつつある。しかし一方で、前年度、現地情勢の問題で実施できなかった現地調査が、本年度もコロナの影響により実施できず、近年の発掘成果の知見収集や、古道や小河川の現地確認等が果たせなかった。このように、最終的なモデルの調整や検証に必要な情報が若干入手できていない面はあるが、研究を遂行する上でのデータ整備および技術的な要素は概ね揃えることができている。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
概ね情報基盤としては必要な情報が登録できているが、より広域の分析結果と当時の人間活動の対応を確認できるよう、引き続き遺跡分布データの入力を実施する。今年度に施行した幾つかのABSモデルの調整を行いつつ、中国南部地域における具体的な地域形成過程についての分析と考察を進める。モデルの調整にあたっては、交通路の選択行動のパラメータ化が課題であり、そのための試行と改良に焦点を置いて実施する。これを実施する上で、参照情報となる最新の発掘情報や古道や河川の現地確認が必要であり、なるべく早くに実施する予定である。ただし、現地調査の可否はコロナの情勢次第であるため、状況が好転しないことも考慮する。現地調査実施の判断は8月ないしは9月頃を目安に行い、実施できないと判断した場合には、現地研究者からの遠隔による情報提供や同地域・時代を専門とする国内研究者を集めた研究会などの実施を検討する。いずれにしても、現地調査が実施できない可能性は残るため、前半には追加の文献・報告書調査を行い、ABSモデルの最終調整についてもなるべく蓋然性の高い形で分析ができるよう準備を進める。また、最終年度となるため、学会報告・論文化等、具体的な研究成果の公表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に予定していた現地調査が現地情勢の悪化のため実施できず、本年度に繰り越すはずであったが、コロナの影響によって結局実施する事ができなかった。現地調査旅費を使用できなかった事が、次年度使用額が生じた大きな理由である。 次年度には、実施できなかった現地調査を行い、調査費で次年度使用額を使用する予定である。ただし、現時点でもコロナの状況は好転しているとは言い難く、現地調査を実施できない可能性も高い。従って、8月ないしは9月頃の状況を見たうえで、状況によっては遠隔による現地研究者からの情報提供や、国内研究者を集めた関連シンポジウム・研究会等の形で分析内容を議論するなどの形で使用する事も検討する。また、現地調査を実施できないことも見越し、補完的な文献調査を視野に入れ、主に前半期を中心に若干の文献・報告書の追加購入を行う予定である。
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