研究課題/領域番号 |
18K18547
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
竹沢 尚一郎 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (10183063)
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研究分担者 |
菊池 義浩 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 講師 (50571808)
黒崎 浩行 國學院大學, 神道文化学部, 教授 (70296789)
伊東 未来 関西学院大学, 先端社会研究所, 研究員 (70728170)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 災害研究 / 被災後社会の研究 / 文化人類学 / 地域社会 / 祭礼 / 学校 / 国内避難民 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは「被災後社会の研究」である。その目的は、地震や津波、大事故などの大災害に見舞われた社会が、その被害を可能なかぎり軽減するにはどのように行動すべきかを、文化人類学や地域社会学、宗教学、建築学などの学際的な視点から明らかにすることである。 東日本大震災のような大災害が発生すると、社会はその構成員の生命をはじめ、経済、政治、宗教、地域社会などの各次元に渡って甚大な影響を被る。そうした被害を軽減させ、より迅速に復旧を実現するには、社会がもつさまざまな能力を発揮させる必要がある。この観点から本研究は、地域社会、学校、祭り、原発事故避難者、商店街、行政機関、まつづくり団体といった社会を構成する諸アクターを対象として、インタビューを含めた現地調査を実施することで以下の理解を得た。 経済活動に関しては、水産業や水産加工業などの基盤産業は国の支援もあってかなり回復したが、商店街は大手スーパーが進出したこともあり、どこでも壊滅的な状態である。教育制度は、過疎化の進行と共に小中学校の統廃合が進んでいる。東日本大震災後に学校は、住民の生命を保護する上で避難所等として大きな役割を果たしたが、今後何がその役割を担うのかは課題である。 地域の宗教生活については、地域社会の象徴である祭りや民俗芸能はいち早く復興したが、福島県の原発事故周辺地域では神社等の統廃合が進められており、今後の課題となっている。 東日本大震災で大きな被害を被った東北3県のうち、岩手県と宮城県では震災後9年を経過するなかで、ほぼ復旧は完了している。一方、原発事故の重大被害が出た福島県では住民の帰還は完了しておらず、全国に避難した被災者が30数件の訴訟を起こしているなど、依然として完全復旧からはほど遠い状態にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、地域社会学や文化人類学、宗教学、建築学の研究者の参加によって実施されたものであり、各自のそれまでの研究実績と問題意識、およびそれぞれの分野の方法論に基づいて研究を進めた。とりわけ、全研究者がくり返しおこなった現地調査により、従来の研究では得られていなかったデータを入手できたことは有力な成果である。そうした各個研究に加えて、そうして得られた理解を総合するべく研究会等を実施した。 本研究の最終目的は、被災後の被害を可能なかぎり軽減するための『減災マニュアル』の作成であるが、大災害は社会の全体に関わる現象であるため、上記の研究者だけでは限界があることが明確になった。そのため、被災後社会の総体的な理解を求めて、社会学や社会福祉学、臨床心理学、法学など、災害に密接にかかわる他分野の研究者にも発表を依頼して、研究会を実施した。 こうした作業により、被災後社会についての広範な理解を得ることができたので、それに基づいて、令和元年に科学研究費補助金を新たに申請した。 以上により、萌芽研究としての本研究の目的はかなりの程度達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は萌芽的な性格のものであり、社会人類学と地域社会学を専攻する研究代表者のほかに、文化人類学、宗教学、建築学を専門とする研究分担者3名からなる小規模なものである。そのため、各自が独自の視点から研究を遂行すると同時に、それを踏まえながら、将来的にどう発展させていくかを全員で討議した。4名の研究者では限界があるため、さらに他分野の研究者にも呼び掛けて、被災後社会についての総体的な理解を得るよう尽力した。 各自が実施した各個研究、および他分野の研究者との討議を踏まえて、新たな研究テーマを立案し、令和元年に、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤(A)「被災後社会の総体的研究:減災マニュアルの作成と減災科学の確立に向けた研究」(研究代表者竹沢尚一郎)を申請するにいたった。 結果は残念ながら不採択であったが、今後、本研究の成果を踏まえた研究を継続して実施するべく、新たな申請をめざして、本事業の研究者および多分野の研究者とメール等で討議や研究成果の交換等を実施している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を実施することにより、当初予定した以上の研究成果を得ることができた。そのため、本研究で得られた成果を社会に広く還元するべく、一般書店より単行本を出版する予定である。 出版のためには出版社との打ち合わせが必要であり、そのための旅費が必要になる。また、一般書として出版するには、学術的な観点のみならず、広い視点からの記述が必要であり、補足調査が必要になる。また、出版のための作業の補助も必要になってくる。 これらに要する旅費及び研究費を翌年度に残すこととしたものである。
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