研究課題/領域番号 |
18K18553
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中川 丈久 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10252751)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 法解釈 / 行政法 / ガバナンス / 民主制 / 公正 / 効率性 / リーガリズム / プラグマティズム |
研究実績の概要 |
最終年度(コロナ禍の影響により,一部作業を翌年度に繰越し承認済み)として,研究の取りまとめを行い,その成果は,共編著『法解釈の方法論』(有斐閣・2021年)における私のふたつの論稿(同書所収の「行政法解釈の方法」および「解題」)として公表した。 研究テーマ「行政法規の解釈方法論の体系的構築による法律動学形成の試み」のうち,前半(行政法規の解釈方法論の体系的構築」については,同書籍における「行政法解釈の方法」が最終成果である。2018年に雑誌論分として公表した同名の論稿(民商法雑154巻5号掲載)の大幅なリライトである。 この論稿では,行政法規(個別法)と行政通則法の区別,行政法規の解釈の現れる場面の3類型化を述べたうえで,「解釈方法と解釈評価の組合せ」という解釈方法論の体系構築を示した。まず,解釈方法の分類方法については,解釈の根拠を示す文理,趣旨目的,立法過程史,上位法適合の4つに分ける方法に標準化した(法の経済分析もその一種として位置付けた)。次に,解釈の妥当性の評価軸として,民主制・公正さ・効率性の3つに分けて,裁判官以外の外部の者(主として学説)が自由に論じることによる「司法ガバナンス」の形成を論じた。 研究テーマの後半(法律動学形成の試み)の研究成果は,同書籍における「解題」に端的に示した。視野を行政法に限定せずに,同書に掲載された全論文を念頭において,ハードケースについて実務と学説がどのように法解釈を形成していくかを観察し,その動態を「リーガリズムとプラグマティズムの交代現象」(温熱化と冷却化)として定式化することで,法が変化を続ける様子を捉えられることを提案した。この整理により,行政法解釈の評価の場である上記「司法ガバナンス」は,行政法分野における法律動学を実践する場に他ならないとの結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究テーマは,行政法の分野に限定したものであったが,民法刑法から経済法,知的財産法まで主要全法分野の法解釈の方法論を収載する『法解釈の方法論』を共同編集する機会に恵まれたため,その機会を捉えて,全論稿の「解題」を執筆し,行政法に限らない「法律動学」の形成についてまとめることができた。この点で,当初想定した計画以上に進展をしたといえる。 また,非権力行政についての論稿も公表した。通常は法解釈に含められていない「自主規制」や「法定外政策内容の実現」といったテーマを取りあげたものである。行政が事業者に自主規制を「勧める」ことを通じて,「疑似的公法関係」を生じさせている行政実態に改めて注目し,本研究のテーマである司法の法解釈方法論(ハードローが対象)に,行政型ソフトロー(自主規制の要請)がどのように影響するのかという新たなテーマ開拓にも進むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
行政法解釈については,本研究で提案した体系的構築について,行政法学説全般からの反応が出てくると思われるので,それへの応接をしていきたい。解釈の妥当性の評価軸として構築した民主制・公正さ・効率性については,さらに法哲学,政治学,経済学との対話を進めて洗練させていきたい。 行政型ソフトローについて,ハードローの司法解釈方法への影響という新たな研究視点を進展させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,申請者の法解釈方法の体系構築について,行政法学説からの応接を受ける機会を設けることができなかった。これをコロナ禍の沈静を見計らって行いたい。
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