前年度末に分野横断的な『法解釈の方法論』を編著し,本科研の成果のとりまとめである拙稿「行政法の法解釈」を掲載したところであるが,拙稿について,阿部泰隆氏ほか,他の行政法研究者と意見交換の場をもった。法解釈の方法論についての研究の意義について,かりの共感を得たことを確認した。他方で,拙稿で示した法解釈方法論の具体的展開をする必要を感じて,2021年度は次のことを行った。 振り込め詐欺救済法という議員立法ついて,私法の解釈として,行政法の解釈方法を応用するというスタイルの判例批評を公表した。政策実現を目的とする法令の場合は,行政法・民事法・刑事法のいずれであっても,共通の解釈方法論を用いること――言い換えれば,行政法や民事法などといった伝統的法分野ごとの区別を意識する必要がないこと――という認識を得た。 もうひとつの本研究の成果の具体的な応用として,「行政訴訟の訴えの利益」と題する座談会を開催し,3名の研究者からの批評を受けた。拙稿「行政法の法解釈」で展開した文理解釈,趣旨目的解釈(法理解釈と仕組み解釈)の区別を用いながら,行政訴訟における「訴えの利益」が,抗告訴訟と当事者訴訟を通じて共通であること,しかも民事訴訟のそれと共通の構造が見出されることを,裁判官の「法理解釈」がそれらに通底していることの証左として示した。また,その理解をもって行政事件訴訟法の文理解釈を補充することで,解釈が明確かつ合理的になる具体例であることを示した。座談会の様子は2021年冬に法律雑誌に公表した。 こうした研究成果の一部は,2021年度に進めたConstitutional Law of Japanの改訂作業において,政訴訟の箇所の書き改めに反映させた(同書は2022年夏に書籍版を出版予定)。
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