福祉の混合経済に関する史的研究―近世イギリス都市における公式・非公式領域の検証―

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K18562
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 川名 洋 東北大学, 経済学研究科, 教授 (70312527)
• 研究期間 (年度): 2018-06-29 – 2021-03-31
• キーワード: ホスピタル / 救貧法 / 福祉 / 慈善 / イギリス / 都市自治体 / 高齢化 / 近世都市

研究実績の概要

本研究は、安定した経済社会を支える福祉制度の理想モデルの構築を目指し、弱者救済の思想的・実践的伝統を有するイギリス社会を例にその制度を支えた歴史的条件を探求することを目的とする。
令和元年度には、中世以来、商業拠点として高度な制度蓄積を実現した自治都市群を中心に近世における多様な救貧施設の運営状況や、当該時期における著しい経済的社会的変化により生じた施設運営上の諸課題に関する文献調査を行い、主に初期の都市型救貧施設が抱えた諸問題の解決に向けた都市政府の対策を中心に施設運営上の改革に関する基礎的事例について検討を進めた。その結果、当該救貧施設特有の構造的諸問題の諸要因がわかり、今後、より幅広い分析が必要となることが確認できた。
また、当該時期の政治状況を背景に変貌を遂げる都市の歴史的文脈を念頭に救貧施設の運営状況に関する事例について分析を進めた結果、かかる諸問題への対応策について施設運営の主体と都市行政主体との連携が重要であったことが浮き彫りにされ、これらの点に関する実証方法の検討が次年度以降の課題となる。
さらに、これまでの研究により各都市で運営されていた救貧施設は当初の推定を上回り多数存在することがわかり、各都市が辿った歴史的経路を反映した多様な経済社会条件を念頭に種々の社会問題への対応を迫れた救貧施設に関する比較研究の可能性が高まった。この点に関する文献史料は膨大であるため、令和２年度以降、継続して調査を行う予定である。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、予定していた国内外における一部の研究調査を実施することが困難になったため。

今後の研究の推進方策

令和２年度以降は、令和元年度に行った研究の成果をもとに文献調査と収集を継続して行う。また当該年度の研究において得られた知見をもとに、救貧施設特有の構造的諸問題の要因とその解決にむけた施設運営の主体と都市行政主体との複雑な関係の解明を目的とし、刊行史料の調査と収集を進める。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、予定していた図書及び物品の購入が一部不可能になったことに加え、国内外における図書館及び文書館への出張費として支出する額が当初計画していた当該年度の予算額を大幅に下回ったため余剰金（助成金の）が生じた。感染症拡大の今後の動向については予断を許さないが、国内外において収束した場合には、当初の計画に沿い研究を継続するために関連図書及び物品購入の経費及び調査研究のための出張費を使用する予定である。