研究課題/領域番号 |
18K18564
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
宇田川 元一 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70409481)
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研究分担者 |
黒澤 壮史 日本大学, 商学部, 准教授 (10548845)
佐々木 将人 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (60515063)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | イノベーション / ナラティヴ / 対話 / オープンイノベーション / ナラティヴ・アプローチ / 企業変革 / イノベーション推進 |
研究実績の概要 |
本研究は、オープン・イノベーションの推進におけるナラティヴ・アプローチの有用性、意義について、考察を行うことを目的としている。ナラティヴ・アプローチは、広く医療や福祉などのケアの領域で展開されてきた実践と研究の方法である。例えば、支援者とクライアントのようなものが典型的で、立場が異なることによって、異なるナラティヴ(解釈の枠組み、生きている物語)を生きる人々が出会う場が、支援の実践の場でもある。このような状況下で、どのようにより良い効果的な実践を生み出すことが出来るか、ということがナラティヴ・アプローチの重要な意義である。 企業経営、とりわけ、企業のイノベーション推進や企業変革と言った場面においても、まさにこうした異なるナラティヴの隔たりが様々な実践上の困難を生み出してきた。これをロナルド・ハイフェッツの概念に照らすならば「適応課題(adaptive challenge)」と言っても良いだろう。すなわち、既存の解決策では解決でるたぐいの問題(技術的問題:technical problem)ではなく、適応課題として、このナラティヴの隔たりにどのようにアプローチするかが、実際に、新たな取り組みを推進しようとする際には、重要な問題として浮き上がってくる。 本研究は、このナラティヴ・アプローチの観点から、企業のオープン・イノベーションの推進の現場におけるナラティヴの溝を乗り越えていくような対話的な取り組みについて研究を行っている。その中で、実際にその溝を乗り越えるための実践ついては、著作としてまとめた(2021年4月刊行)。また、実際のイノベーション推進の現場については、調査を行い、その概要が徐々に明らかになってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.研究進捗について 昨年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の問題によって、極めて重大な研究推進への支障が生じた。学会での研究者同士の交流が大幅に制限されたこと、また、企業への訪問が事実上不可能になったことにより、研究方法の立て直しを余儀なくされたためである。このような中では、なるべく調査対象にアクセスするために、これまで以上に人とのつながりを構築することに時間を要し、そのために研究進捗が滞るところもあった。しかし、徐々に、世の中全体がオンラインでのやり取りなどが一般化したこともあり、少しずつ研究を進めることが出来たと考えている。 2.研究から分かってきたことについて 当初の課題(オープン・イノベーション)に限定せず大手企業のイノベーション推進全般についてフォーカスを少し広げながら、インタビュー調査を行っている。ここから見えてきたことは、イノベーション推進と企業変革とが一体となっている企業においては、極めてイノベーション推進が進みやすい一方、イノベーション推進が新規事業開発に限定されていることは、発展性が限定される可能性があるということである。なぜならば、イノベーション推進は、短期的な業績に貢献することは困難であり、そのため、業績以外の取り組みの筋を構築する必要がある。この点において、企業変革という全社的な課題と併せて取り組むことによって、長期的な企業の変革力の構築に寄与するものとしてイノベーション推進を位置づけることが可能になるからである。今後は、この点を更に深く掘り下げ、こうした企業変革へとイノベーション推進の取り組みを進めていくために何が必要かについて、調査と考察を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍で、緊急事態宣言が繰り返し出される状況であるため、インタビュー調査をひとつの基盤としている本研究課題としては、昨年同様、研究の推進は困難を極めているが、可能な限り研究を進めていきたいと考えている。 具体的には、昨年からの取り組みを継続し、企業への調査研究をより行っていきたいと考えている。実際、少しずつそうしたインタビュー調査への協力は得られつつあり、これをより充実させることで、イノベーション推進が大手企業においてどのように可能かを明らかにすることができるのではないかと考えている。 現段階で調査を行っている複数企業の事例については、これをまとめていきながら、ケーススタディや論文へと発展させていくことを視野においている。例えば、進捗状況に記したように、イノベーション推進は短期的な成果を生み出すことは困難であるために、これをどのように実際に進めていくことが出来るのか、ということは、各企業、ひいては日本の企業社会全体に関わる重要な問題である。これについて、具体的な微視的実践だけでなく、全体設計も含めて調査研究を行うことは一つの重要なテーマであると考えている。 実際、こうした取り組みを行っている企業においては、イノベーション推進の中で、不可避的にオープン・イノベーションへの取り組みは行われており、本来の研究課題とこれは何ら矛盾するものではない。したがって、研究課題の解明のためにも、イノベーション推進と企業変革との関係を明らかにしていくことを軸に今年度は研究を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症拡大のため、研究活動が著しく制限され、とりわけ旅費等の支出が激減したためである。学会報告や調査などを想定していたが、これらがすべてキャンセルされ、また、オンラインでの環境においての調査を継続している状況である。そのため、機材購入などは必要が生じたものの、残額が生じた。 今年度は引き続いて同様の調査を行うため、機材の購入の経費が生じるのに加え、研究テーマに即したデータベース購入を予定しており、このために経費を用いて研究の推進を行っていく。
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