本研究は、日本と中国のIPO市場に注目し、1)新興企業の設立を通じて、新製品やサービス、事業カテゴリが社会に提案される過程、2)企業による社会への提案が社会構成主体によって支持(反対)される過程、その結果、3)社会に受容(非受容)される過程を明らかにすることから構成される。これら一連の過程を解明する上で、社内の創業者と経営チーム、そして経営チームを取り巻く信用供与・資源提供者がそれぞれ果たす役割に注目する。その目的は、社会の承認を得ていない新しいカテゴリが信用供与・資源提供者の支援を通じて、 社会的正当性を確立する過程について解明することにある。 コロナ感染症により研究実施3年目で進めるべき作業が大幅に遅延したため、研究期間を1年延長した。その最終年度となる2021年度は、対象企業を日中企業ともに、大幅に拡張した。最終サンプルは日本のIPO企業1258社となり、中国IPO企業(深セン創業版上場企業)は1113社となった。 主たる研究成果は、(1)アクセラレータプログラムへの参加が新興企業の資金調達に与える影響、(2)既存大企業と創業ネットワークの関係、(3)IPO時点の資金調達計画とIPO後の調達資金の執行、(4)外国人起業家が直面する事業課題、そして(5)個別新興企業の革新プロセスの解明に関するものである。 具体的には、アクセラレータプログラム参加による資金調達効果は支援企業の成長後期において小さくなること、新興企業の創業には多くの(非)上場企業経験者が関与し、特定の既存大企業が創業者創出の母体となっていること、IPOの資金調達計画とその執行には一定の乖離が見られること、外国人起業家は日本において多様な事業課題に直面していること、そして、大きく事業拡大に成功した新興企業には成功要因として業界横断的な協力活動が見られることが明らかとなった。
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