研究実績の概要 |
本研究はトランスディシプリナル(異分野越境的:福祉・医療政策学系、市民工学系、脳情報科学系、経済学系など)な視点を結び合わせることにより、ケイパビリティ概念に基づく正義理論を構成する途を探った。ケイパビリティ(潜在能力)アプローチは、個人の主体的評価や選択の自由を尊重しながら、本人の客観的な潜在能力上のニーズを捉えることを可能とする。しかしながら、それは次の3つの方法的難問ゆえに、その理論的な定式化や実証的研究は困難だとされてき た。すなわち、〈1〉多次元機能集合としての潜在能力を(個人内・個人間)比較評価しうるのか。〈2〉観測された選択(達成)点から観測不可能な潜在能力を頑健的に推定できるのか。〈3〉潜在能力を構成する多次元機能リストは一般的・普遍的に定められるのか。本年度は3年間の研究活動の総括として、Dignity, Freedom and Justice , Springer (2024年7月SpringerよりOpen access刊行予定)の編集作業を行った。専門分野の主要な領域は、哲学、経済学、科学哲学、政治哲学、脳科学、社会学、倫理学、美学などである。主要な研究課題はカール・ポパーらの社会科学方法論、ジョン・ロールズの正義理論、メイナード・ケインズの経済哲学など、戦後のリベラルな社会科学の主要な領域を形づくってきた学問研究を、脳科学や行動心理学、応用倫理学などの批判的知見を借りながら、方法論的に省察することだった。リベラルな社会科学のめざしてきた完備性・最終性要請、社会科学における「実証」的方法の到達点と限界をあきらかにしたうえで、それを批判的に展開するためのヒントを明らかにすることができた。
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