研究課題/領域番号 |
18K18570
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西村 直子 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (30218200)
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研究分担者 |
竹村 和久 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10212028)
増原 宏明 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (10419153)
西條 辰義 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (20205628)
井上 信宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40303440)
上原 三知 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (40412093)
林 靖人 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (60534815)
山沖 義和 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (60564713)
武者 忠彦 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (70432177)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | フューチャー・デザイン / 市民討議 / 社会調査 / リスク選好 / 時間選好 / 実験 |
研究実績の概要 |
本研究は、「仮想将来世代」を政策形成・合意過程に導入する(=フューチャー・デザイン,以下FD)ことで、未来を視野に入れた長期的かつ俯瞰的な視点に基づく合意形成の具体的手法を領域横断的に開発し、その効果を科学的に検証することを目的とする。持続可能性に関わる地域課題の特徴は,個人(短期)と社会(長期)が利益相反するため政策合意形成に至らず停滞することが多い。その問題に、市民参加型討議に焦点を合わせ、解決の突破口を提供する。 本研究では,2018年度から継続して,(1)市民参加型討議における提供情報の種類と質の検討や合意形成プロセスの効果の分野横断的検討を通じてFD討議手法を見直しし,「仮想将来世代」に誘うための将来情報の提示方法や,効果的に誘うための討議中に行う複数種類のワーク内容と実施手法,及び変容した市民が構造的に意思決定することを可能にするための討議言語の開発に着手し,一定の成果を見た。(2)また,新FD手法を用いた市民参加型討議を開催し,そこから導出された政策含意が,これまでのFDを伴わない手法から導かれた同質の政策に対する含意との比較を実施し,両者に顕示化するのに十分な差異を検出した。(3)現世代の利害を超える時間的俯瞰思考が、人々の意思決定プロセスにもたらす影響や、自他の利害相反を克服する社会的俯瞰思考と時間的俯瞰思考との相関について、データに基づき統計的に検証し有意な差異を特定し,FD手法の効果を定量化した。(4)2019年度で新たに,自治体が自分たちでFDワークショップを実施できるようになるためのマニュアルを松本市役所と協働で作成し,松本市役所内で決済された。マニュアルには,これまでの本研究の概要と具体的な実施方法が掲載されている。これに基づき,学術的分析部分について詳細に記述したものを信州大学のワーキングペーパーとして作成し,HPにアップした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)本研究では松本市と佐久穂町の2つの自治体と連携し,自治体と研究者との協働が欠かせない。松本市との協働関係は,本研究の準備段階である2016年から継続し順調に進んできている。2019年度には実績の概要にも記載したように,これまでの協働研究を実施マニュアルとして作成した。 (2)佐久穂町と代表者所属学部とが本研究をテーマに連携協定を結び,協働作業の土壌づくりを開始した。佐久穂町では,FD実施に向けて,自治体職員,議員,町の有志,信大チームの4者からなる研究グループを形成し,2019年度中に数回ミーティングを開催した。ところが,台風19号が佐久穂町に甚大な被害をもたらしたため,FD実施に向けての活動がペンディングとなった。 (3)佐久穂町での台風被害の処理業務が一段落し,FD研究会を再開する作業を進めていたところ,今度はコロナウィルス感染拡大が勃発し,再度の休止状態となっている。 (4)コロナウィルス感染状況の下での市民討議の開催は,少なくとも従来のやり方では困難であり,順調に進んでいる松本市においても今後のFD研究に障害がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後研究を進めていくうえで,次の4点が課題となる。 ①松本市においては一応のFD実施を見たことを踏まえ,次段階として松本市役所内におけるFD職員の養成を行う。まずは,政策課内での養成をスタートさせ,政策形成過程に構造的にFDを定着させることを目指す。実施方法はオンラインを中心に模索する。 ②佐久穂町については,いったんとん挫していたFDの研究活動を再開させ,佐久穂町における政策課題の整理とコロナ時代におけるFD実施の形を模索する。佐久穂町では,松本市で行った個別の施策へのFD応用とは異なり,条例等の作成といった政策形成そのものに直結する形でのFD導入方法を検討する。 ③FDが人々の思考に変化をもたらす効果に関する検証は,これまで時間選好を主なターゲットとしてきたが,将来リスクにも焦点を当てて,経済学でいう高次リスク回避度の観点からの検討を開始する。 ③最後の論点として挙げる必要があるのは,R2年度におけるコロナ状況下での問題である。従来型の市民討議は,60人規模の市民が長時間・複数日にわたって討議を行うものであり,3密の全てを充たしてしまうものであるため,FD追加実施に大きな支障が生じるのは必須である。また,得られた知見を報告する機会も地域の移動が限定されるため激減する。さらに自治体内でのオンライン化は非常に進んでおらず,セキュリティの観点からもオンラインでの会合すら困難である現実があり,職員との研究会を設定すること自体にも大きな支障がある。これらは,研究プロジェクトの最終局面に至るにあたって,非常に大きな支障として予想され,回避の方法は今のところ不明である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の大部分は,市民討議実施に関わる諸経費及び研究会や報告会等への参加のための旅費に充当されるが,市民討議実施には自治体や市民など多くの関係方面との調整が必要であり,長い期間を経て準備して初めて実施が可能となる。そのため,助成金支給後から年度内に実施できる討議規模は限定されてしまった。 2019年度では佐久穂町での市民討議実施を予定していたが,台風19号が佐久穂町にもたらした被害が甚大であったため,実施することができなくなった。その結果,当初予定していた市民討議のための予算を支出することができなかった。 次年度使用額については,2019年度請求額とあわせて,市民討議の実施や研究会等への参加に使用したいと思っているが,コロナウィルス感染状況の下で,研究会や市民討議の実施自体にも支障が生じることが十分予想されるため,予定通りの支出が行われるかは不明である。
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