研究課題/領域番号 |
18K18578
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
馬場 新一 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (50722641)
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研究分担者 |
國部 克彦 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (70225407)
森村 文一 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80582527)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | CRM / 被災地支援 / エシカル消費 / ヤフー被災地支援 |
研究実績の概要 |
2018年度は,CRM( Cause Related marketing)の事例研究及び現地調査を実施した。実績は以下の通り。 ①資料調査:災害後の大手企業が取り組んだ復興支援事業を収集した。東日本大震災の支援を実施した企業を,「2012CSR企業総覧」(東洋経済社)から抽出して内容を整理した。結果,支援内容は寄付(金銭と製品),社員のボランティア活動,(寄付つき商品の販売を含め多種あったが,大部分は寄付だった。2011年当時,CRMの取り組み企業はまだ少なく,実施例として,キリン,ヤマト運輸,ネスレ及び継続して取り組んでいるイオンを事例として取り上げた。 ②現地調査は,復興中で課題が残っている地域を対象に選んだ。●共同会社を設立してカキ養殖事業に取り組む桃浦漁業協同組合,●漁業権を持たない沿岸地域の大船渡市赤崎地区,●兵庫県南部地震の鎮魂を続ける神戸ルミナリエ,●仮設住宅または恒久住宅での孤立が懸念される被災者をフォローする社会福祉協議会を訪問し,現地の確認と対象者からヒアリングを実施した。 ③寄付つき商品の販売,被災地産品の販売支援,募金収集の3つを実施したヤフーを訪問し,担当者への聴き取り調査を実施した。ヤフーで得た情報は研究を進展させた。また3月11日に「3.11」のクリック募金を継続して実施しているが,年数経過と共に件数が増加する事実は貴重な事例となった。 また,消費者庁がエシカル消費を消費者に浸透させる取り組みを実施している中で,徳島県で「子供の保育料を割り引く原資をつくるCRMを実施した事例があり,現地での視察とヒアリングを実施した。このようなCRM情報を集め,ビジネスの社会貢献という観点から,江尻 (東北福祉大学教授)や西堀(愛知学院大学教授)等と意見交換を実施し,本研究の見解が偏らないよう留意して研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究で,企業と消費者が協力して被災者を支援するスキームの事例から課題が見えてきたことで,本研究の実践取組の方向性を導出していくことがきた。資料研究等で明らかになった企業の社会貢献ビジネスは,企業の評価向上を狙いとしており消費者の善意とのマッチング及び復興が遅れている地域への対応が不十分であると言える。継続した取り組みを実施している企業も,3.11のイベント以外の支援ビジネスで継続してヒットしたキャンペーンがなく,企業単独での取り組みには限界があると推量していた。しかし,ヒアリングの成果として,プラットフォーマーの事業者であるヤフーが実施した「クリック募金」は,年数を経過するほどクリックが増加するなど,時間の経過と復興への関心が低下するという従来の常識に反する事例も表出している。このことから,CRMの継続性については,訴求方法やテーマによっては市民の支持を得る可能性が大きくなると期待される事例が見つかった。 社会の新たな変化が研究に与える影響も考慮する。1つは,企業の寄付金付き商品販売が中小規模の事業者にまで拡大し始めてきたことである。またもう1つは,消費者に関することであるが,消費者庁が中心となって,消費者に「エシカル消費」を呼びかけるイベントを開催するなど,消費者の社会貢献消費の拡大が期待できることも変化である。これらの変化が,消費者の消費行動と意識に変化を与えているか,データを取るために消費者調査を年度末に実施した。 徳島県で実施している,地域で子育てを支援するCRMについて調査した結果,Causeの身近さ,結果の分かりやすさ,寄付金の使途の明確さなど,支援する人と企業の距離感の短さが支持される理由になっていることは,今後の研究に取り入れる好事例となった。
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今後の研究の推進方策 |
①修得した知見を基に、 CRM等が増えてきた傾向も入れて,復興支援に向くビジネスのありかたを研究する。方向として、複数企業,複数業界との連携や,企業間の有機的連携などビジネスとして取り組みやすいCRMを研究する。さらにCRMの機動性,共感性,集金力,年代間や男女間など詳細な区分で研究する。 ②新しい社会の変化を研究に取り入れる。2015年SDGsが採択され,国は国民に広く早期に浸透をするよう種々取り組んでいる。本研究に関わる消費場面では,企業と消費者のどちらにも社会的消費が求められている。この新しい社会的変化は市場の変化を誘い,企業には社会的責任を伴う企業活動を求め,消費者には倫理的消費を求めることになる。消費者については,消費者庁本体及び地方行政の協力のもと,エシカル消費の浸透と拡大を図っている。復興支援もエシカル消費の項目に入っていることから,消費への影響も期待できる。これらの影響は,倫理的消費の意識を成長させることにもつながるので、復興支援の共感を得るCause にも影響が出ると考える。従来の研究に、この新しい変化が企業と消費者の行動に与える変化に着目し,復興支援事業に絞ってCaueの変化を研究していく。加えて被災地のニーズの詳細な把握も実施し、支援と受援のミスマッチを防ぐ。さらに,災害復興支援の事例等を国内に限らず,多くの取り組み情報を集めて,成功と失敗の起点を分析していく。 ③企業のメリットを研究する。社会貢献に積極的な企業としてESG投資の対象になっており,CSRの周知方法などからメリットを探る。消費者については,エシカル消費などの援助規範意識の変化なども継続して調査し,CRMの協力促進を図るポイントを探る。被災地については,復興ニーズと支援方法から受益者を意識したCRMの活用を研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な差異は以下の3点である。【1】ホームページの制作を見合わせた。プラットフォーマーの事例をヤフーで収取できることが分かったため、独自のホームページ作成を見送った。今後、CRMビジネスの実証実験を実施する場合は情報交換をネット上で行うことになるが、初年度の作成は見送った。(800千円)【2】海外のCRMの特徴的事例について、現地を調査するため計画したが、ネットで情報を得ることができたため中止した。今後、被災地支援の先進的事例について現地調査する予定。(200千円)【3】アンケート調査を実施したが、ネット調査変更したことで調査員の人件費が削減できた。(100千円)
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