研究課題/領域番号 |
18K18578
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
馬場 新一 神戸大学, 経営学研究科, 経営学研究科研究員 (50722641)
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研究分担者 |
國部 克彦 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (70225407)
森村 文一 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80582527)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 災害復興支援 / CRM / 企業と消費者が協力 |
研究実績の概要 |
本年度は,災害復興支援としてCRM(Cause Related Marketing)が,企業と消費者が協力できる事業として成立するかを研究した。 近年,ESG投資やCSV(Creating Shared Value)経営の拡大もあり,企業が社会貢献活動に取組む姿勢が見える。CSR総覧2021年版では社会貢献活動支出のある企業が,掲載1617社中789社と半数近くあった。本業に関連して共感を得やすいCRMの実態をネット検索で,企業の事例を検出した。CRM事例は2021年が36件で,前年が13件,前々年が6件で近年の増加傾向がみえる。ただ,東日本大震災発生時の2011年は9例検出したが,山崎製パンやNestleの事例が検出されず,ホームページ等から削除された例もあるため全数把握はできていない。CRMのテーマでは,2021年はコロナ関連が12件でトップ,災害支援関連は6件だった。テーマは話題性など人々の関心に影響される。2019年にCRMをテーマにした調査を実施した。テーマ別では,「災害復興支援」が5段階評価でスコア3.81と高く,「環境保護活動」が3.52,「育児介助助け合い事業」が3.22であった。「環境保護」のCRM事例は,サラヤの「ヤシの実洗剤」がある。2007年から出荷額の1%をボルネオ環境保全活動に寄付して現在も継続している。「育児支援事業」は,徳島県阿波町でこども預かりの補助金支援事業で2017年から実施している。両事業は,消費者の支持もあり現在まで継続している。「災害復興支援」は,支持され瞬発力はあるが,山崎製パンが復興支援で5年間実施した例では,年々売上げが低下した。復興支援は継続が難しいテーマと考える。しかし,共感を得やすいことから,企業が取上げやすいテーマである。継続への課題として,消費者意識を調べる調査を阿波町で実施したが,コロナの関係で中断となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被災地(者)から,行政の支援だけでは不足する復興のニーズを聴き取り,フリーハンドで使える支援金が必要なことが判った。この支援金を企業と消費者の消費行動で創出する法としてCRMを取上げた。CRMで集めた寄付の使途の研究も進めた。発災直後のニーズを社会福祉協議会等で聴き取り,ボランティア活動の支援金が必要と知った。製造企業の復興には売り場や商品の販売促進などの支援も必要であり,小企業が集まる商店街の支援など多様なニーズがあった。時期・規模・内容など様々な支援が必要である。クラウド・ファウンディングなどで資金調達も可能になったが,自立しにくい弱者への支援は課題として残っている。発災直後には,募金や企業からの寄付もあるが,寄付先が日本赤十字社などに偏っていたため,上記のようなニーズが被災地で聞かれた。行政からの支援が漏れる内容もあり,支援先や支援内容の提供も課題として研究を継続している。 支援の多様性としては,コープこうべのハート基金がある。災害復興支援のボランティア活動にも支援可能な寄付金を常時募集してプールし,発災時に拠出する仕組みである。本研究では,熊本地震の際にタビオ(株)とCRMの実証実験をして売り上げの10%100万円を熊本県西原村のボランティア活動に寄付をし,消耗品などの購入に充てた実績がある。参加企業数が少ない間は,災害復興支援のCRMでも支援金額が少なくなるため,ボランティア活動支援程度が金額的に妥当と思われる。 消費者の行動については,エシカル消費を促進する行政の動向にも注目しており,消費者庁や行政の消費者部門等と情報交換を継続している。消費者庁は現在消費者志向経営の普及浸透に力点を置いており,消費者のエシカル消費の推進は2次的になっていると受け取っている。消費者が積極的にCRMを支援する行動は期待できないため,消費者をCRMの実行に参加させる手段が未解決である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終段階として,災害復興支援のCRM実行を想定し,課題の解決策も想定し社会への提言としてまとめる。 1)消費者への周知と行動啓発:消費者にCRMを伝え行動を促すために,広告のAISAS の法則から研究する。Attention:いかに消費者に情報を到達させるかが一番の課題である。テーマが「災害復興支援」なので,これまでの研究結果からある程度のInterestを得ることができ,共感も得ると想定される。次のSearchに到達すれば,購入のActionにつながる。共感は見込めるので情報のShareができれば課題の解決が図れる。現在CRMを実施している企業の取組みを聴取して上記要点を整理する。 2)支援金の支給,管理の課題:支援金を支給する支援先の選定基準,支給科目と金額など消費者及び参加企業が納得できる基準を整理する。現時点では,規模,実施時期からボランティア活動支援が適切と考え,ボランティア活動の経費支援として課題を整理する。コープこうべのハート基金についてボランティ活動への支援基準等の情報収集を行う。①現在,資金提供は寄付行為であり,その寄付者の多様性と継続性②支援先の選定基準と時期,規模等③不足時の対応,決算など運営に関する上記3点の情報を聴取する。支援金の管理,会計報告など管理コスト面も情報を得る。 また,B to Bで復興を支援した企業,B to Cで復興支援を受けた企業等,同業組合からの支援や同業者からの支援など,被災企業の復旧支援の実態と,不足した点からニーズの掘り起こしを図る。企業の支援への拡大も想定に加えておく。(参考:2020年発生の熊本県球磨川水害では,焼酎の製造会社が集まり共助を実施。また焼酎の売上に寄付金を含むCRMも実施)各取組みの詳細な内容や市場での反応などについて調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で、面談や現地の聴き取り調査などがたびたび中断し、進行できていない。
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