研究実績の概要 |
本年度の主な成果は、Fujita, Hamaguchi, and Kameyama, Spatial Economics for Building Back Better, 2021, Springerである。本書は東日本大震災を人口増加から人口減少に転じた歴史的転換点において、日本の周辺地域において発生した大規模災害と明確に位置付けて分析を行ったことに特徴がある。本書により、人口減少過程における集積の経済の弱体化、地域資源に基づく産業の局地的クラスターのリジリエンシー、低賃金に基づいて拡張してきたグローバルサプライチェーンの脆弱性、復興過程において規模の経済を代替するコミュニティの外部経済効果の重要性が明らかになった。また、新型コロナウイルスによる感染症拡大について、グローバル化の進展に伴って知識集約型経済活動が地理的に集中し、それとともに低賃金サービス労働市場を構成する移民も国際的に移動した結果形成された人口集中地域において、最初の感染拡大が集中した災害と捉えて分析した。集積は経済発展の象徴である一方で感染の源泉ともなることが明確になり、大都市では突然に在宅勤務を取り入れた新しい働き方に移行することが強制される社会実験的状況となった。フェイストゥフェイスコミュニケーションの不足が生産性を低下させると指摘される中、本書では仕事を多様なアクティビティの集合と定義するときに、働く場所をアクティビティの性質に応じて柔軟に選択し、それらが相互に補完的に生産性を高めあうような空間システムを確立することによって、生産性を損ねることなる感染症への強靭性も高い都市を形成することが可能であることを発見した。しかしこの点については理論的にも実証的にも今後さらに研究を発展させる必要がある。
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