研究課題/領域番号 |
18K18583
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研究機関 | 東洋学園大学 |
研究代表者 |
畔上 秀人 東洋学園大学, 東洋学園大学現代経営学部, 教授 (90306241)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 複合的分析手法 / リスク選好 / 経済学 / 文学 / 金融リテラシー |
研究実績の概要 |
本研究は、統計的分析手法を用いる経済学と、文学作品等の記述的資料を分析対象とする文学とを融合し、個人のリスク選好と金融商品・資産選択に対する消費者行動分析に新しい視点を加えることを目的とする。本研究を遂行するにあたり、個人または個人が形成するグループ間でリスク選好に相違があることを示す指標を設定する必要がある。そこで、人口一人当たりの個人生命保険の契約件数や契約金額をその指標とし、都道府県別に集計したとき、地域間で相違があることを確認した。これは現在のみならず、1960年代まで遡ってもそうであった。一方、個人生命保険契約実績で示されるリスク選好について、こうした地域間で相違が生じる要因を長期的に考えたとき、世代間での選好の継承が存在しているのではないかという仮説に思い至った。すなわち、相対的にリスク回避的な個人が集まる地域において、そのリスク選好が次世代に継承されるのであれば、その地域では長期的にリスク回避的傾向が継続するであろう、ということである。 この仮説を検証する方法の一つとして、一般的なミクロ経済学の概念に基づいた理論モデルを構築した。これは、主観的な事故確率を持つ個人が最適に行動する設定の重複世代モデルで、親と同居する個人は、親の主観的事故確率を継承するというように、親世代との同居・別居が結論に影響を与えることを仮定したものである。モデルとしては、様々な想定を組み込むことができるため、多様な設定でそれぞれの理論的帰結を導いた。そして、理論的接近だけでは結論の具体性に劣るため、現実的なパラメーター値に基づいてカリブレーションも行った。 このように、親と同居する割合とリスク選好とを結びつける考え方に基づいた研究は前例が少なく、現時点では理論的接近によっていくつかの結論が導かれ、また実データ間における新たな関連性が発見されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先に提出した研究実施計画に記したように、平成30年4月~6月の第1期は交付内定前であるため、各種サーベイ作業は平成30年7月~12月の第2期に並行して行った。第2期の主たる作業は個人のリスク選好の地域特性の抽出であるが、「インシュアランス保険統計号」(株式会社保険研究所)及び国立国会図書館所蔵書籍から引用したデータを基に、予定通り行われている。一方、国勢調査結果から得られる世帯の状況に関するデータは、想定以上に多様かつ有益な情報であることがわかり、上記の理論モデルの構築に至った。当初計画では理論的接近のみで結果報告を行う予定はなかったが、平成31年2月25日に金融プラス・フォーラム第6回研究報告会にて成果の一部を発表した(https://sites.google.com/site/financepluskaiin/6thkenkyukai)。そこでの議論を踏まえ、理論モデルの拡張と、より多様な数値を用いたカリブレーションを行い、国際学会での発表が認められるよう、原稿を作成した。その結果、初めにアジア太平洋リスク保険学会での報告機会が得られた。続いてより採択率の低いアメリカ保険学会の研究大会にも報告申請し、採択された。それぞれ平成31年7月~8月に研究成果の報告を行う。前者では、理論モデルから得られた結論を中心に報告し、後者では実証データとの整合性から個人のリスク選好の形成過程について報告する予定である。 現在は平成31年1月~6月の第3期にあり、個人のリスク選好形成に影響を与えたと思われる歴史的に発生したイベントの抽出を、広範囲の資料を精査して行っている。 研究前半で想定以上の成果が得られたことから、理論分析に当初計画よりも多くのエフォートを費やしている。これによって文献調査に若干遅れが生じているが、全体としての研究進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、平成30年4月~6月の第1期に人文地理学分野及び金融リテラシー分析分野の中で、地域金融市場に着目した既存研究をサーベイし、平成30年7月~12月の第2期に地域学や人文地理学の手法を応用して個人のリスク選好の地域特性を抽出する計画だった。上記の通り現在は平成31年1月~6月の第3期にあり、個人のリスク選好形成に影響を与えたと思われる歴史的に発生したイベントの抽出を、広範囲の資料を精査して行っている。理論分析を進める中で、想定以上に幅広い経済状況を描写するモデルが構築できた反面、特に文学分野の既存研究のサーベイに若干の遅れが生じているため、第3期の残りの期間では文献調査に注力していく。本研究の特色は、個人のリスク選好形成に影響を与えたと思われる歴史的に発生したイベントの抽出において、新聞や雑誌の記事及び文学作品を資料として用いることにある。それは、通常「史料」として用いられない文献を、その時代の消費者の金融リテラシーを示すシグナルとして用いることであり、記事内容の真実性よりも読者数と読者層が重視される。現存する文献は自ずと一定の部数が発行されたものとなるが、発行部数の特定に時間を費やすものと予想している。 当初計画では第3期終了後、第23回アジア太平洋リスク保険学会で研究成果の一部を報告する予定だったが、提出した研究報告原稿は審査を経て採択された。また、研究の進行状況によっては他の国際学会にもエントリーすることを視野に入れていたが、こちらも審査の結果アメリカリスク保険学会で報告できる運びになった。 これらの学会報告における議論を踏まえ、令和1年7月~令和2年3月までの第4期では、仮説の検証を行いながら、頑健な結論について最終的な研究論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会参加にかかわる経費を支出する予定だったが、価格に有利性から航空券や宿泊施設の予約・決済を交付内定前に行った。このとき、本研究助成金が交付されない場合に備えて、他の予算から経費を支出する手続きを取っていた。その結果、両予算から経費を支出するため、領収書を適宜配分したところ、一部次年度使用額が生じた。また、「コレクション・モダン都市文化」等全体の情報量が非常に多く、経費も多額になる資料については、最も有益性の高いものを選定しなければならないため、本年度は拙速な購入を見送った。 現在、予想以上に拡張された研究結果が得られたため、当初計画に加えてより採択率の低い国際学会に報告申し込みをし、採択されたところである。よって、本年度の未使用額は次年度に有効に使用できる予定である。また、上記の通り、購入資料の選定に時間をかけたことから生じた未使用額分についても、当初計画通りに使用される見込みである。
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