本研究では、経営学分野の組織学習理論を用い、医療現場で蓄積される臨床に関わるデータを分析することで、学習理論の進展を図るという目的で進められた。第1に、フィードバック効果に関する研究を行い、論文化が行われた。フィードバック効果とは、医療従事者に医療行為のパフォーマンスを共有、開示することである。フィードバックにより、行動変容が促され、より医療サービスの質が向上されることが期待できる。行動変容をもたらすもう1つのドライバーは、インセンティブである。しかし、インセンティブは、金銭的費用の増加が想定されること、ゲーミング行動が発生し、経営政策担当者が意図しない行動が生まれる可能性が高い。一方で、フィードバックによる行動変容は、分析と共有のためのコストに抑えられ、意図しない行動がうまれにくいという効果が考えられる。本研究では、脳卒中Aの患者が医療機関到着時点からCTスキャンを受けるまでの時間(Door to CT時間)に着目し、この時間を測定し、医療従事者との共有を2回行った。フィードバック前のベースラインとの比較だと、フィードバックを行う毎に時間の短縮が見られ、また、時間の分散自体も減少していた。医療サービスの質が向上しただけでなく、質の安定化が図られた。第2に、第1の研究から派生させ、コロナ渦における医療現場の時間マネジメントに関する研究を行った。医療分野の先行研究では、コロナ渦が脳卒中患者の治療にどのような影響を与えたのか、に関する蓄積が進んでいる。しかし、これらの研究ではパンデミック直後の3~6か月程度のデータを使用したものが多く、短期的なショックしかキャプチャできていなかった。そこで本研究では2020年~2022年の比較的長期的なコロナ渦データを、2019年のベースライン・データを比較し分析を行った。その結果、他の研究よりも小さいコロナ渦の影響しか検出されなかった。
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