研究課題/領域番号 |
18K18585
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 智英 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50813648)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 応用制度設計 / Accountics / 幸福感なき経済成長 / 成熟経済社会 / サステナビリティ / 公益資本主義 / One Additional Line / New Triple Line |
研究実績の概要 |
本研究は従来の「利益の増大」=「国民所得GDPの増大」=「幸福感の増進」という等式が崩れつつある成熟経済社会において、新しいビジネス・経済データシステム(Accountics)を構築しようというものである。2019-20年度は(1)文献調査、(2)ステークホールダー・インタビュー・聞き取り調査、(3)投資家・アナリストアンケート、(4)経済団体及び一部上場企業経営者との討議、(5)新しい財務諸表(DS:Distribution Statement)のデザイン、(6)DSに基づくシミュレーション、(7)複数の学会発表など、多くの集中した研究活動に専念した。
(1)および(2)では仮設通り、利益の拡大に伴う幸福感や遣り甲斐やプライドの伸長が逓減している事実を確認した。(3)からは、生産者や消費者のみならず、投資家やアナリスとまでも自らの役割に疑問を感じ、そこで創出される利益や「企業価値」が市民の生活の厚生向上の役に立っていないと感じていることが確認された。そこで、主たるステークホールダーの中心的役割を果たす(4)との討議を通じ、(5)これまでのデータ・動機付けシステムに代わる「付加価値分配計算書(DS: Distribution Statement)」を考案した。これは理論制度設計学や社会構築主義会計を応用した国際的にも類をみないヒューリスティックな提案である。(6)この新しいモデルに基づき、また実際の会社データを用いてシミュレーションを実施した結果が想定以上に良好であったため、(7)早急に論文化したところ、複数の学会より年次総会のパネリストとしての招致があり発表を重ねた。
この新しいデザインは学術上も重要な示唆に富むものであるが、それ以上に現実的な実装を重視しており、これまでに関西経済連合会やアライアンスフォーラムが積極的な関心を示し、実務・政策としての実現を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の欄で示したように、大枠において、本研究は当初想定したよりも順調に進展している。当初、本研究は将来制度設計のための理論的・実験的な基礎固めを主眼としていたが、パイロットテスト的に提案した新しい財務諸表DSが好評をはくしているために実装へ向けての準備が進んでいる。
他方、未だに理論的な支柱が堅牢であるとはいいがたく、また特に実験データについては以下の理由により著しく進展が遅れている。(1)2020年初頭よりの Covide-19 感染拡大の影響で、従来より協同してきた英国オックスフォードの Simulata 社のソフトウェアエンジニアの訪日が遅れていること。(2)紙ベースの実験で代替しようとしても、大学閉鎖や政府による三密回避の要請からこれが不可能であること。今後は Web ベースの実験・シミュレーション・ソフトウェアの開発を試みるなど、できるだけ早期に実験データを得て、理論的・実験データ的堅牢性を高めてゆきたい
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」の欄で説明したように当初予定した実験ソフトウェアを用いた研究が進展していない。英国オックスフォード在の Simulata 社は当方が長期にわたり協同関係にある信頼できる社会科学実験ソフトウェアの開発会社であるが、Covid-19 パンデミックに伴う自粛期間が長引いており、当方からの連絡にも返信がない状況が続いている。代替案として本邦で緊急事態宣言の解除後に教室で紙ベースの実験を想定していたが、三密回避の指導から、これもしばらくの期間困難な様子である。そこで、実験プロトコールの観点からは一定の犠牲の下に、Webベースの実験或いはシミュレーションシステムの開発を試みるなどして、既に実装に向けて走り出したヒューリスティックなアイディアに対する理論的・実験データを提供し実践的学術研究としての堅牢性を高めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はそもそも、ハカソンで得られたオリジナル・アイディアを、実験経済・会計ソフトウェアを開発・利用してステークホールダーが無意味な短期利益追求行動から解放され、有意味な長期的な行動へシフトしうるかを実験的に確認する作業を主柱としていた。
しかし2018-19のハカソンで得られたオリジナル・アイディアが、主要ステークホールダー、実務会及び学会で予想以上の好評をはくし、2019-2020は実務・政策としての実装へ向けて招致発表に相当の時間を要した。そうした会合でも有用なデータは入手出来ているものの、当初予定した実験データを創出するまでは研究が進んでいない。また、この実験の遅れに関しては、従前より協力関係にある在英(オックスフォード市)ソフトウェア開発会社 Simulata 社の担当員の訪日が不可能になっている状況がある。更に、コンピュータベースの実験から紙ベースの実験への方針転換を試みたが、これも Covid-19 感染防止の観点から不能な状況にあり、今後 Web ベースの実験へシフトできないか早急に工夫を試みている次第である。
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