研究課題/領域番号 |
18K18585
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 智英 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50813648)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 成熟経済社会 / 応用制度設計 / 付加価値分配計算書 / Distribution Statement / 公益資本主義 / サステナビリティ / ナッジ / 幸福の経済学・会計学 |
研究実績の概要 |
本研究は主として日本など、成熟経済社会(ポスト・グロース・エコノミー)のサステナビリティのための研究である。発展途上国にくらべ先進国のサステナビリティ研究は国際的にも殆ど例を見ない。急激な人口減少はもとより、多くの分野で完全競争や需要飽和に近い状態が続き、生活レベルが既に高い状態でも有効に機能しうる「動機づけ制度」は何か、従来の「損益計算書」や「利益」に代わる経営指標やフォーマットを考案し、成熟経済社会のサステナビリティに寄与しうるか研究を進めている。(新型コロナウィルス感染拡大に伴い、当初予定されていた実験手法(多くの被験者を長時間同じ部屋に手作業させる必要があった)が不能となったため、代替的な実験・シミュレーション手法を考案し実施している。)
かつて希少資源であった「資本」は余剰しており、新たに希少資源として注目されているのは「士気の高い労働」である。特に将来の従業員としての学生の意識改革が必要であると考え、上位大学生の就職活動が個人の生活の充足を促進するとともに経済社会の活性化につながるような財務諸表(付加価値分配計算書:Distribution Statement)を開発し、紙/オンラインベースで、実験・シミュレーションを重ねている。途中経過は順調で、国連関連機関Alliance Forumや関西経済連合会のカンファレンスや、日経ビジネスやWedge誌における特集で取り上げられ、注目を集めている。
今後はこれをWebベースのシミュレーター化し、一層のデータの収集と、市民社会レベルでの周知を図る所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、当初予定されていた実験手法(多くの被験者を長時間同じ部屋に手作業させる必要があった)が不能となったため、代替的な実験・シミュレーション手法を考案し実施せざるを得なかったが、この難を転じてアドバンテージとするよう努力した。
大学教育の多くがオンラインシステムに移行したことをうけ、将来の従業員たる学生の意識や就職活動・行動を定性的・定量的にモニターすることに成功している。この新たな環境の下で、企業に関する公式な情報源としての有価証券報告書やその外延情報がどのように認識され就職活動・行動に結びついているのか分析するとともに、そうした情報の「形」を新たに形成してやることで、これをナッジとして希少資源としての労働の効率的な利用を果たす制度設計を進めている。
当初は、そうしたナッジの原理の発見・説明に終始するリスクもあったが、既に、経済社会上の実装の機会も得て研究を進めている。本研究はAlliance Forumや関西経済連合会や日本会計研究学会、会計理論学会などのカンファレンスで発表されると同時に日経ビジネスやWedge誌でも取り上げられ、注目を集めている。また、3月3日には国会で、前法務大臣森まさこ議員による菅総理大臣への基本質疑の基礎もなしており、重要な進展を遂げているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、次の4点で研究を推進したい。1.開発された付加価値分配計算書(Distribution Statement:DS)を用いた有価証券報告書の実証分析。産業ごとに、求められる、付加価値の分配割合の計測をし、発表することで産業界および労働者の参考に供したい。2.DSモデルをWebベースのシミュレーターとして公開し、ステークホールダーに提供するとともに、更なるデータの収集に努めたい。3.様々なメディア(論文・著書・ビデオ・SNS)を通じてDSを用いた経営を推奨することで、希少資源としての労働の効率的な活用を推進するとともに賃金の上昇に貢献したい。4.成熟経済社会の問題は、25年後の中国・インドではより一層の重要性を持つことが予想されている。そうした事態を想定して、中国・インドの研究者との共同をはじめ、国際貢献を企図している。既に、中国財政部、およびインド企業省は共同の意思を示し、今年度の後半より国際共同を始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大を受け、当初計画していた実験(多数の被験者を同一の実験サイトに集め長時間作業を要するもの)が不能となったために、当初の実験ソフトウェアの開発を中止・延期せざるをえなかった。ただし、その後、計画を変更・改善し、別の方法で将来の従業員たる学生からオンラインで定量・訂正的データを確保するよう努めている。この作業は50%ほどの進捗具合であり、今後も継続する。この作業を通じて開発された付加価値分配計算書(Distribution Statement:DS)に基づくDisclosure 制度の有効性を確かめるために、DSシミュレーターをWeb上に公開し、学生と企業の双方がDS経営のシミュレーションを通じて、新たな経済経営運営に関する知見を醸成するよう努める。それと同時に、このプロセスを通じて得られるシミュレーションデータを使って、論文化や書籍化を図る。
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