本研究は主として日本など、成熟経済社会(ポスト・グロース・エコノミー)のサステナビリティのための研究である。発展途上国にくらべ先進国のサステナビリティ研究は国際的にも例を見ない。これまで成長を前提とした経済政策を通じて国民経済の健全な発展が企画されていたが、準完全競争、準需要飽和、急激な人口減少を特徴とする成熟経済社会における新しい経済・会計政策とはどのようなものか。従来の「損益計算書」や「利益」に代わる経営指標やフォーマットを考案し、成熟経済社会のサステナビリティに寄与しうるか研究を進めてきた。かつて希少資源であった「金融資本」は余剰しており、新たに希少資源として注目されているのは「人財資本」である。希少財としてのヒトに投資し、動機づけ、イノベーションを推進するために、新たな財務諸表(付加価値分配計算書:Distribution Statement)を提案した。コロナ禍のオンライン環境を逆手に取りシミュ レーション実験を開発し、この財務諸表の下でのヒトの行動を観察した。 結果は『成熟経済・社会の持続可能な発展のためのディスクロージャー・企業統治・市場に関する研究調査報告書 <四半期毎の開示制度の批判的検討を契機とする>』(2021)として発表され、2023年春の通常国会において、従来の金融商品取引法上(24条)の四半期報告書制度の廃止に導いた。更に、『新しい資本主義のアカウンティング:「利益」に囚われた成熟経済社会のアポリア』(2022)に提示された「付加価値の適正分配政策」は新しい経営・会計・統計の基礎を提供し、政府・与党の日本Well-being推進特別委員会の第五次提言、および2023年度の「成長戦略」に盛り込まれるに至った。今後成熟経済社会化を早める中国およびインド政府からも注目され、今後の協働体制の拡張が期待される。
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