本研究は、日本の食文化を形成する要因を、飲食店、顧客、食文化、等から多角的に分析することにより、日本の食文化とそれを支える食産業の形成要因を明らかにしようと試みるものである。本年度は、日本を代表する食文化である寿司が国境を超えて他の文化で展開するうえでどのように発展・変容してきたか、に焦点を充て、口コミサイト上位の店舗に関する口コミを分析した。その内容をAsian Academy of Management International Conferenceで発表した。 一般に寿司というと江戸前鮨や握り寿司をイメージすることが多い。しかし、海外に寿司が展開・浸透する中で、現地の食文化や食品流通システム、食材等に適合して、「寿司」という食文化の概念が変容している。海外で日本人が経営する店では変容の程度が低く、非日本人が経営する店では変容の幅が広い。本研究では、米国での寿司店と日本での寿司店を日本人経営(寿司職人が日本人がメイン)か否か、日本人顧客か否か、で比較して調査した。調査の結果、日本の寿司店では味やネタの種類の豊富さ、新鮮さなどが評価の対象となるが、米国ではロブスターなど日本にはない寿司のネタが話題になること、日本人でも海外の寿司店ではそれほど味覚を追求しないものの、非日本人よりもネタに対する評価が多いこと、非日本人にとってはアルコールの種類が重要であり、大人数で出かける機会が多いこと、などが導かれた。この違いは、日本では、寿司自体を楽しむ目的で職人の握る寿司店を選択するが、米国では大型店舗やチェーン店が多く、寿司自体というよりも、仲間との語らいの場としての寿司、という認識で利用されることが多いためであると推察できる。このように、「寿司」の概念は、異文化における関係性を通じて再構築され、変容を遂げる。
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