研究課題/領域番号 |
18K18611
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓子 名桜大学, 健康科学部, 教授 (60224573)
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研究分担者 |
新里 美智子 名桜大学, 健康科学部, 助教 (20816756)
鬼頭 和子 名桜大学, 健康科学部, 准教授 (90714759)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 自死遺族支援 / 地域文化 / 相互扶助 / 沖縄 / 特殊葬法 / 自殺 |
研究実績の概要 |
本研究は、相互扶助文化の根強い沖縄における自死遺族支援が進まない背景を分析し、沖縄の地域文化に根差した遺族支援の構築を目指している。前年度に引き続き自死および自死遺族に関わった経験のある多様な人々への面接調査を実施した。内訳は、沖縄県北部地区在住の僧侶2名、民生委員・福祉相談員4名、保健師1名、社会福祉士1名、元自治体職員2名、社会福祉協議会委員1名、一般市民3名である。僧侶は、自死遺族に関わるが、遺族が自死にふれない限り僧侶からあえて踏み込むことはなく、通常の葬儀を十分な配慮の上行っていることが明らかになった。僧侶は儀礼に関わるユタの存在に疑問を抱きながらもユタとの連携も無視することなく遺族の心理的負担に配慮していた。民生委員からは近年個人情報保護にかかわる問題から自死関連の問題の共有が難しく、情報はほとんど取りあつかわれることはなく、また、民生委員を対象としたゲートキーパー研修はあるものの実際に地域で発生している自死や自死遺族支援の問題は、ほとんど共有されていない現状が明らかになった。一方、若年妊婦や虐待、DⅤ等の女性関連問題を取り扱っている相談員からは、沖縄ではいわゆる「ゆいまーる」等の相互扶助精神のある親密なコミュニティが社会資本として想定されているが、現実的には親密なコミュニティの中で自死をはじめ忌避される問題が起こった場合、相互扶助が機能するどころか当事者は排除され支援が受けられない実態があることや、身内を自死で亡くし支援を受けることなく孤立している事例が多数あることが語られた。 以上のように、自死をめぐっては地域コミュニティの中で十分な支援がなされていないことから、匿名性が確保された中で遺族が他の遺族の体験に耳を傾けられるという「匿名性の担保による不安軽減の上での情報提供」と「相談ニーズのある遺族が気兼ねなく相談できる場の提供」の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は前年度に引き続き、僧侶、地域住民、地域住民にかかわる専門家(保健・福祉・医療、警察・消防所員等)への面接調査や、前年度からの引き続きで沖縄県北部地域における地域の文化風習である共同墓や門中墓の維持や地域での取り扱い、異常死の受け入れ等についてもフィールドワークも実施する予定であったが、コロナ禍のため当初予定していた調査や面接による聞き取りが困難となり、ICT等の活用も困難な状況であったため、前半はこれまでのデータの検討および必要時情報共有が可能であった自死遺族支援の会やグリーフケアの少人数の情報交換会を行なった。具体的には、沖縄県自死遺族会分かち合いの会での支援活動(2020.7/18,10/17,12/19)、そして遺体管理士、葬儀社、みとりし、看護師、介護士らとの「死にかかわる職種の情報交換会」(2021.3/19)、「葬儀社と医療者の意見交換会」(2021.3/27)、「沖縄の葬儀の可能性を考える会」(2021.3/30)を開催し、意見交換を行った。面接調査の実施は年度の後半からとなり、また、県内外への学会参加が開催中止となったり、出張そのものが困難となったことも重なり、主にこれまで収集したデータの検討が中心となったため、全体的に研究が遅れている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの影響についてはある程度社会においても共有できるようになり、研究者らもワクチン接種を受け、またPCR検査等も実施することも可能になっていることから、協力者の方への感染予防対策を適切にすることにより直接対面による聞き取り調査は可能なものと考えられる。また、研究成果の公表については実践的な成果を小さなミーティング等でも実施し自死遺族支援者および自死遺族らと共有できるものと考えられるので、構築した支援モデルについて紹介し意見の聴取などを行っていきたい。 専門職からだけではなく地域において地域の文化的背景を踏まえた遺族支援について、僧侶、ユタ、地域住民、地域住民の支援者らとともに検討し、コンセンサスの得られた支援について研究成果の報告につなげていきたい。一部についてはICNCongress2021-nursing around the worldにおいて研究代表者および研究分担者が各々発表するために演題登録を終え現在準備を進めている。沖縄の地域文化をふまえた自死遺族支援とは、どのような可能性があるのかを保健医療の専門職のみならず、地域住民や宗教、福祉、生活支援者等の様々な人々が共に関わり関心を寄せる支援のあり方を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度において学会発表を予定していたが学会そのものが中止となり、またオンライン開催もされなかったため当初使用予定であった旅費・参加費などの支出が必要なくなったこと、またフィールドワークおよび面接調査の実施についても、研究協力予定者が高齢者が多く個別の面接の設定が緊急事態宣言発出や蔓延防止等重点対策措置対応のため、実施することが難しくなったことが、調査全体の実施対象者数が少なくなり、これに伴う調査旅費、音声データの文字変換、協力者への謝礼などの経費が予定に至らなかったことが主な理由になる。次年度は、研究者自身のコロナ対策もできる体制になっていることから、研究協力者への丁寧な説明を実施した上で、調査の実施を行う予定である。また、構築できた沖縄の地域文化に根差した自死遺族支援についても、関係する調査協力者らにフィードバックをすることにより、その有効性および課題の検討を行う予定である。成果については国際学会及び国内学会もオンライン開催が決定していることから報告する予定である。
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