研究実績の概要 |
本研究は相互扶助文化の根強い沖縄における自死遺族支援が進まない背景を分析し、沖縄の地域文化に根ざした遺族支援の構築を目指している。これまで遺族支援にかかわる専門家(精神保健福祉士,臨床心理士ら)、遺族に関与する立場にある専門職(警察官,葬儀社,遺体管理士,僧侶)、スピリチュアルケアの担い手(ユタ,ヌル,神女)、地域住民、地域住民に直接かかわる機会の多い区長、民生委員、地域包括支援センタースタッフらに面接調査を実施し質的に分析した。その結果、沖縄県では葬送儀礼をめぐる公的私的行事がここ10数年で極端に簡素化し、コロナ禍もあり、自死とそうでない死の区別は表面的にはわかりにくくなっていた。一方で、長年在住している地元住民からは自死への根強い忌避感情が語られ、同時に自死遺族への気遣いから、自死が生じても「何もなかったかのように」振る舞っている実態が明らかになった。結果として、自死への忌避感情と直面する葛藤が回避される結果となっていた。公的に把握されることはないが、沖縄では現在も、ユタや神女によるスピリチュアルケアが自死遺族の救いとなっていた。同時に、地域の中で孤立や孤独状態に陥りやすい自死遺族や精神的健康問題を抱えた人たちへのケアが地域包括ケアスタッフにより行われており、その工夫が明らかになった。それは各家庭の事情が語られなくても地域で驚くほど共有されているという地域特性に根ざしたケアであり、ユニークな特徴が明らかになった。以上より、沖縄北部地域における、自死遺族支援を検討する上で、効果的支援について考察した。相互扶助文化の根強さは、援助希求を低下させる要因にもなっていることを踏まえ、つながりがあるとよいという単純な言説ではなく、つながり故に知られてしまうことの不安等遺族の苦悩を踏まえた支援、すなわち地域文化に根ざした重層的支援の必要性と内容について検討した。
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