研究課題/領域番号 |
18K18626
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
根津 友紀子 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (00746779)
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研究分担者 |
山本 仁 大阪大学, 安全衛生管理部, 教授 (20222383)
大島 義人 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (70213709)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | リスク評価軸 / 実験室デザイン / 気流解析 / 実験行動解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、実験室のイノベーション創出と安全確保のバランスに関する包括的理解と最適化を目的として、人に関する「実験行動解析」と、モノに関する「モノの扱われ方解析」、場に関する「実験室環境解析」の三つを柱として検討を行っている。 実験行動解析:実際に生じた事故やヒヤリハット事例と実験者動線の関係を検討するために、PDR(Pedestrian Dead Reckoning)法による実験者動線の取得および動線情報の解析を行った。取得動線データを解析したところ、実験シナリオから想定される必要最少移動回数の約4倍であり、実際の移動回数とは大きな差が見られた。また、作業場所間の移動時間の合計は、全実験時間の約1割を占めた。このことから、実験シナリオから想定されない実験行動と動線の関係についても詳細に検討し、移動の工程を含めて実験のリスクについて検討を行う。 モノの扱われ方解析:実験室のリスク評価軸の探索をする上で、化学物質の扱われ方についての解析は必要不可欠である。そこでRFID(Radio Frequency Identification)という通信技術のみを用いて、実際の実験研究室での化学物質の室内の移動を追跡した。実験室は実験機器等電波に影響を与えやすい金属体が多いが、このような環境においても、RFIDによって概ね化学物質の移動をモニタリング可能であることが示された。今後は化学物質の使用に関する情報も合わせて取得することで、化学物質に関するリスクについて解析する予定である。 実験室環境解析:フルスケール実験室を1/10に縮小した実験室模型を用いて、実験室内で人が移動することによる気流への影響を検討し、模型を使っての人からの気流への影響が検討できることが示唆された。今後は模型を使って、実際の実験室に特徴的な動線を模型上で再現することによって、実態に即した気流解析を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験行動解析:実験室という狭く金属体が多い環境では、電波を用いる通信技術による動線情報取得には技術的課題が多い。従って、本年度は電波を用いない加速度センサおよびカメラを併用したPDR(Pedestrian Dead Reckoning)法を基本とした手法を用いた。本測定で使用したところ、時間の経過と共に加速度、角速度の測定誤差が蓄積されるという原理上の問題が発生し、5 mごとに誤差補正を行う結果となった。従って、複数の実験者の測定の前に、今回対象とした実験室ではない場所での測定を行うことで、測定精度を確認する必要がある。一方で、得られた動線情報を解析したところ、実験研究の特徴や特殊性について明らかにすることが可能であることが示された。 モノの扱い方解析:予定通り、実験室において、RFIDのみで概ね化学物質の移動をモニタリング可能であることが示された。 実験室環境解析:1/10縮尺模型を使うことで、人からの気流への影響を検討可能であることを確認した。また、既往の研究で報告されている実際の実験室での実験者の動線情報を用いて、これらの移動における気流への影響についいて検討を行い、連続的な人の移動における気流への影響を可視化することに成功した。来年度は連続的な人の移動による気流への影響を詳細に解析するとともに、熱源としての人からの影響について検討する予定である。 このように、本年度はデータ取得のための方法論の検討に多くの時間を割くことになったが、取得されたデータから、実験室デザインの指針となる知見が取得可能であることは確認できた。従って、本年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
実験行動解析:今年度も実際の実験室を対象に、一人および複数の実験者動線情報を取得し、実験者動線の形成の要因を明らかにする。具体的には、一人および複数の実験者動線を取得し、実験作業内容から考えられる実験目的を達成するために必要な最短距離の実験ルートと比較する。実験室のレイアウトや実験者へのインタビューなどから、最短ルートからの逸脱要因を検討し、実験者の室内における行動を決定する要素を探索する。最終的には、実験作業内容からの最短ルートの作製と逸脱要因を含むルートの生成機能を有する、実験行動シミュレータの実現を目指す。 実験室環境解析:1/10スケール実験室を用いて人が与える気流への影響を引き続き検討を行う。具体的には、これまでは移動体としての人の気流への影響を検討してきたが、そこに合わせて熱源としての人の存在、移動による気流への影響を検討する。同時に、実験室には背の高い実験什器がおいてあることも多く、実験室特有の環境における人の存在、移動についての検討も行う。一方で、これまでは気流の検討を主に行ってきたが、今年度は化学物質の拡散濃度も測定し、人への影響についても検討する。1/10スケール実験室だけではなく、フルスケール実験室においても同様に濃度測定を行い、双方の結果を比較することで、模型実験室を用いた検討の妥当性を検証する。その後、シミュレーターで算出した動線において、化学物質濃度測定を行い、人への化学物質の暴露リスクについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画当初、実験行動解析の検討において動線情報を取得するのにBeaconという通信技術を採用する予定であったが、、電波強度を小さくすることに限界があり、狭い実験室内での動線情報の取得精度に問題が発生した。従って、別途実験者の動線情報の取得に加速度センサを用いた手法を採用して検討したため、複数の実験者の動線取得が2019年度の実施に変更になった。2019年度は複数の実験者の動線情報を取得するために、スマートフォンの購入やアプリケーションの改良に予算を使用する予定である。
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