研究課題/領域番号 |
18K18631
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
後藤 郁子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (60724482)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 初任教師指導者(メンター) / 形成的介入 / 能動的発達支援 / 介入法の開発 |
研究実績の概要 |
本研究は、エンゲストロームの形成的介入の理論を活用し、初任教師指導者(メンター)の指導力向上を図ることを目的とする。研究の概要は、以下の研究ⅠからⅣに示す通りである。 研究Ⅰでは、学部・院での教育実習・インターンシップにおいてメンター役の附属校教師が実習者の能動的な発達を促す形成的介入を試行し、研究者はその試行過程におけるメンターの指導法の要素を検証し概念化する。次に、研究Ⅱでは、都内の或る公立小学校の初任者研修の場で、研究Ⅰと同様の試行・検証を行い、メンターの介入の要素としてまとめていく。また、形成的介入の試行に関わっていない都内2区の公立小学校(83校)のメンターにもアンケート調査を実施してメンターの指導実態を明らかにし、その検証結果を研究に活かしていく。研究Ⅲでは、事例検討会を定期的に実施し、附属校・公立校其々での形成的介入の試行を通したメンターの指導法の在り方について、具体的且つ客観的検証を行う。研究Ⅳでは、研究Ⅰ~Ⅲで得られた結果を基に、初任教師の能動的発達を支援する介入の基本概念を明確にしたメンターの指導力向上プログラムを開発する。研究Ⅰ~Ⅲについては主に2年間で行い、研究Ⅳは3年目に行う。 二年目における研究実績は、附属小学校での教育実習者への形成的介入を試行しメンターの指導法の要素を検証し概念化できた(研究Ⅰ-②)。更に、形成的介入の試行に関わっていない都内2区の公立小学校(83校)のメンターへのアンケート調査結果について、メンター及び初任者へのインタビューの結果に照らし、メンターの指導実態について検証することができた(研究Ⅱ)。また、これらの研究結果については、検討会を実施し、附属校・公立校其々での形成的介入の試行を通したメンターの指導法の在り方について客観的検証を行い、初任教師の能動的発達を支援するメンターの介入「基本概念」として示した(研究Ⅲ)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
附属小学校におけるの教育実習においてメンター役の附属校教師が実習者の能動的な発達を促す形成的介入を試行することができた。また、都内公立小学校のメンター及び初任者へのインタビューを実施し、一年目に追究した東京都内2区の初任教師指導者(メンター)へのアンケート調査結果と比較検証を行いメンターの指導法の在り方と課題についても検証することができた。その結果の概要は、以下の通りである。 〇抽出されたメンターの基本的な介入概念 2019年6月に実施された附属小学校での教育実習期間において、延べ約4時間35分の記録を分析した。更に、終了後に、実習生に30分程度半構造化インタビューを行った。その結果、指導プロセスにおけるメンターの基本的な機能概念が明らかになった。授業構想時(課題設定時)においては、「方針設定を促す」「共感的に聴く」、授業組織時(課題解決時)においては、「最終判断を促す」「正確な状況把握を促す」「子ども観・指導観を示す」「情報を追加し一緒に考える」、授業後の振り返り時(評価時)においては、「自己評価を促す」「指導の良さを評価する」「成長への指標を示す」という介入概念が抽出された。 〇初任者研修の実際から捉えた初任教師指導者(メンター)の介入課題 メンターへのアンケート調査では、最も(重点的に)指導したこととして、「授業に関すること」と約9割のメンターが答えるなど圧倒的に多く、基本的な授業づくりのための指導に中心が置かれていることが分かった。一方で、初任者へのインタビューからは、メンターの熱心な指導が、初任教師の「今日は指示を出されないようにしよう」という意識や、「準備をしっかりやっても上手くいかない」という思いを増幅させることにもなっていることが分かった。欧米の先行研究より、経験豊かなメンターが、自らの成功体験を基に指導する=押し付けることに繋がる問題と捉えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
三年目は、二年間の成果を基に介入の基本概念を明確にした「メンターの指導力向上プログラム」としてまとめると共に、具体的且つ客観的検証の場を広く開き、効果について確かめていく。また、「メンターの指導力向上プログラム」の解説を本にすると共に、教育現場のメンター及び指導的立場の教師や研修担当教師などを対象にしたワークショップなどを実施し、現場展開を図る。但し、客観的検証の場を設けることについては、新型コロナ感染拡大により実施が難しいと判断した場合には、安全に実施できる時期を待って開催することになる。具体的には、以下のように進めていく。 〇介入の基本概念を明確にした「メンターの指導力向上プログラム」 指導のプロセスにおける介入の基本モデル、授業構想時(課題設定時):「方針設定を促す」「共感的に聴く」、授業組織時(課題解決時):「最終判断を促す」「正確な状況把握を促す」「子ども観・指導観を示す」「情報を追加し一緒に考える」、授業後の振り返り時(評価時):「自己評価を促す」「指導の良さを評価する」「成長への指標を示す」を基に解説し、本にまとめ教育の現場にアプローチしていく。 〇成果の客観的検証をねらいとした現場展開 第一に、学会発表を通した検証を行う。一つは、ヨーロッパ教育学会(8/25-8/28)で、コロナ対応により開催中止となったが、査読結果は良い評価が得られ採択された。二つ目は、日本教育学会(8/24-8/28)でのウエブ開催における発表を予定している。第二に、研究者による事例検討会を行う。検討会は、7月、10月、1月に概ね15名程度の研究者が参加し、本研究成果の客観的検証を行う。出された所見を活かしていく。第三に、メンター及び指導的立場の教師や研修担当教師などを対象にしたワークショップを実施し、本研究成果の有効性について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、3月に予定していた日本教師学学会(関西医科大学会場)での口頭発表が中止となり(発表要旨集で参加と見なす)、出張に係る出費が無くなったため。 次年度使用額については、コロナの状況を見定めたうえで研究交流のある秋田大学附属校における教育実習及び若手教師育成に係るメンタリングの在り方についてのリサーチに充てていく計画である。
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