研究課題/領域番号 |
18K18631
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
後藤 郁子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (60724482)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 形成的介入 / メンター / 初任教師 / 発達支援 / 介入法 |
研究実績の概要 |
本研究は、初任教師を指導するメンター育成の理論枠組みを示すことで、初任教師に限定されない教師教育領域における新しい指導観・育成観の構築へのチャレンジと位置づける。 中原(2009)は、人材育成の観点から新人がどのようにして一人前になっていくかという過程こそが重要であると唱えている。エンゲストローム(1991b.p80)も、実践者が自ら捉えた課題(矛盾や葛藤)を、実践者自身が能動的に解決するツールを見出していく(ブレイクスルー)過程に発達の芽があるとしている。初任教師の発達にも、その過程を大事にしながら支援する(形成的介入)指導者が必要である。本研究は、初任教師を指導するメンター育成の理論枠組みを提案するとともに、新しい教師教育の在り方にも一石を投じるという挑戦的研究を進めている。 三年目の研究は、メンターの指導力向上研修プログラムを開発し、その効果を検証し成果をまとめることを目指す。具体的には、一年目と二年目の成果を基に、学校現場でのメンターの指導力向上に関する研修プログラムを開発する。また、モデル研修の試行を行い、1回目の研修で出された課題を分析した上で、2回目の研修にて課題解決を試みながら検討を加え、メンターの指導力向上に有効なプログラム開発を行う。 フィールドは、お茶の水女子大学と文京区との連携事業として、また、NPO法人お茶の水教師の第三の学び研究会と文京区教育委員会教育センターとの協定事業として行ってきた附属校及び文京区内小中校との連携研修の場である。本研究では、その連携枠組と研究Ⅱの近隣校の中で、試行的にメンター研修を実施・検証して成果を出していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一年目・二年目を通し、学部・院での教育実習・インターンシップにおいてメンター役の附属校教師が実習者の能動的な発達を促す形成的介入を試行し、研究者はその試行過程におけるメンターの指導法の要素を検証し概念化した(研究Ⅰ)。次に、研究Ⅱとして、都内の公立小学校(A校)の初任者研修の場で、研究Ⅰと同様の試行・検証を行い、メンターの介入の要素としてまとめた。また、形成的介入の試行に関わっていない都内2区の公立小学校(83校)のメンターにもアンケート調査を実施してメンターの指導実態を検証した。研究Ⅲでは、事例検討会を定期的に実施し、附属校・公立校其々での形成的介入の試行を通したメンターの指導法の在り方について、具体的且つ客観的検証を行ってきた。 三年目は、研究協力者や教育学の研究者を交えた定期的な研究会での成果の検討や、学会発表、都内の小学校のメンターを対象に現場展開を図ることを目指した。その上で、研究Ⅰ~Ⅲで得られた結果を基に、初任教師の能動的発達を支援する介入の基本概念を明確にしたメンターの指導力向上プログラムを開発することとしていた。 しかし、コロナ禍の状況により、研究協力者や教育学の研究者を交えた定期的な研究会での成果の検討は、Zoomで行うなどの工夫はしたが、回数を含めて十分に行うことができなかった。また、都内の小学校のメンターを対象にした現場展開についても、コロナ禍もあり設定することができなかった。そうした中で、日本教育学会とヨーロッパ教育学会での発表、及びTeaching and Teacher Education誌への投稿は行うことができた。Teaching and Teacher Education誌から指摘された点について、検討を加えることができた。ただ、学会発表は、要旨の掲載ということで研究者からの意見や評価を受けることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、コロナ禍の状況により、研究協力者や教育学の研究者を交えた定期的な研究会での成果の検討は、十分に行えていない。また、都内の小学校のメンターを対象にした現場展開についても、コロナ禍もあり設定することができなかったなど、現場展開を通した検証が不十分な状況である。今後は、これまでの成果の検証と、現場展開の工夫が必要である。 〇一年目・二年目の成果:学部・院での教育実習・インターンシップにおいてメンター役の附属校教師が実習者の能動的な発達を促す形成的介入を試行し、研究者はその試行過程におけるメンターの指導法の要素を検証し概念化(研究Ⅰ)。及び、研究Ⅱとして行った、都内の公立小学校(A校)の初任者研修の場で、研究Ⅰと同様の試行・検証し、メンターの介入の要素の検証と概念化。また、形成的介入の試行に関わっていない都内2区の公立小学校(83校)のメンターへのアンケート調査で、メンターの指導実態を捉えることができた。 〇三年目は、メンターの指導力向上プログラムの開発を目指し、研究協力者や教育学の研究者を交えた定期的な研究会で成果の検討をZoomで行った。その上で、研究Ⅰ~Ⅱで得られた結果を基に、初任教師の能動的発達を支援する介入の基本概念を明確にした。 今後は、コロナ禍の状況を踏まえつつ、メンターや指導的立場にある教師及び管理職を対象に、ZoomでのWSを更に実施し、初任教師の能動的発達を支援する介入の基本概念を明確にしたメンターの指導力向上プログラムを開発する。また、成果は、冊子、或いは出版も考慮に入れ、都内の教育委員会及び協力校に届け、教育現場への現場展開を図っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、次の通りである。1、コロナ禍で、国内外の学会が全てウエブ開催か大会誌への掲載という形になり、研究協力者も含めた旅費の支出が無くなったため次年度の使用とした。2、定期的な研究会や都内の小学校のメンターを対象にした現場展開(研究成果の還元)での資料・リーフレットなどの印刷や配布を考えていたが、コロナ禍の影響を受け検証が不十分であったため、成果をまとめるところまでできなかった。1、2の理由から、経費は次年度に持ち越すこととし、研究成果の還元(現場展開)を目途にした冊子の作成・配布及び出版『自立した教師を育てるメンタリングとは(仮名)』にかかる費用として使用する予定である。
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