研究課題/領域番号 |
18K18640
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横山 悦生 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (40210629)
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研究分担者 |
市原 猛志 九州大学, 大学文書館, 協力研究員 (00590564)
石田 正治 名古屋芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (30402671)
川島 智生 京都華頂大学, 現代家政学部現代家政学科, 教授 (60534360)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 技能労働者 / 学校図面 / 工業学校 / 工業高等学校 / 製図 / 地域産業 / 科学工業博物館 / 産学連携 |
研究実績の概要 |
1.工業学校については、国立公文書館の学校台帳にある工業学校を調べ、全489校(一部重複)の学校設置認可に関する簿冊リストを作成した。その中から現在も工業高等学校として存在する学校を抽出し、その学校設置認可の文書を閲覧、各校の簿冊の全文書を複写した。この中には学校図面(敷地図、校舎等の建築設計図)が保存されているものがある。学校図面は、中学校、高等女学校、工業学校関係で176簿冊あった。工業学校は32簿冊、26校である。これらは全て閲覧、複写した。また以下の学校を訪問し保存資料の調査を行った。岐阜工業高等学校では、戦前期の卒業アルバムより、実験実習室の写真、学校記念誌、学校要覧等を収集した。学校要覧は、学校経営・運営の1年間のすべてを記録した資料で、同校の場合、設立以降の各年度の学校要覧がすべてそろっていた戦後の一部が不明)。松阪工業高等学校では、戦前期の卒業アルバムから実験実習室の写真などを収集した。鹿児島工業高等学校では、同窓会名簿を収集した。それには卒業生の就職先が掲載されていた。 2.高等工業学校については長岡高等工業学校について調査した。同校は、人材育成のみならず、科学工業博物館を創設し、地域の機械工業の発展を支援し、石油関連産業からの構造転換を進めた点で特徴的であった。高等工業学校は人材供給により地域産業に貢献したと考えられるが、このような間接的な支援のみならず、教官が直接的に地域産業の発展を唱導した事例が判明した。戦間期に同校が石油産業から機械工業への構造転換に大きく貢献した事実が明らかとなった。戦間期の機械工業では、熟練工のカン・コツに依存した属人的技能から、精密測定と金属材料の知識を基とする互換性生産技術への転換が求められていた。長岡高工校長の福田為造はその点を繰り返し指摘し、敷地内に科学工業博物館を創設し、相談所を設けて中小の鉄工所を指導支援した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
工業学校については当初計画した35校以外にも調査をすることができた。それは協力研究者が更に参加し、全国的な規模で調査を更に進めることができた。ただ、当初の計画の35校の中でまだ調査ができていないものが残されているので、それについては2019年度に完了させるように進めていく。 高等工業学校について、一つの事例分析の調査にとどまった。しかし、その中から重要な研究課題を発見することができた。その点では大きな成果を得ることができたと考えている。2019年度にはもう一つ事例分析の調査を行い、先の事例との比較検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、2018年度の研究成果をもとに、高等工業学校については、以下の3点を研究テーマとして掲げたい。 第1に、長岡高工が行った支援内容と、指導を受けた工場内での実践に関する因果関係を解明する。マイクロメータ、ブロックゲージ、リミットゲージなどの普及状況、硬合金を使用したバイトの利用(金属材料の知見)などを、主として関係者ヒアリングにより、調査する。第2に、神戸高工を次の調査対象とする。長岡高工に触発され、神戸高工も工業科学博物館を設け、地域の産業発展に貢献した。戦間期の神戸の産業発展と神戸高工の産業支援とどのような関係があるのか、実証的に解明する。第3に、機械工業における熟練工と技術者とのコミュニケーションを図る手段としての製図の概念の確立に関して検討する。熟練工本人のみ理解できればよいとするスケッチから、他者にも理解される共通のコミュニケーションツールとしての「製図」に移行する地理的、時間的な推移を明らかにする。具体的には、2018年度に収集した全国の工業学校、高等工業学校などの学校図面を基に、製図室の誕生期、「図面室」から「製図室」への名称転換などを検証することで、製図教育の確立を考察する。 工業学校については、岐阜工業高等学校で収集した学校要覧を分析すれば、教育課程や設置学科の変遷、教員の経歴、キャリアなどから研究課題の一端の解明が予想される。鹿児島工業高等学校で収集した同窓会名簿を分析することにより、この工業学校の果たした役割の一端の解明が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究活動を進めていく中で、新たに何人かの研究協力者の参加を得ることができた。その方々に調査に参加してもらうためにも予算を140万円前倒ししたが、約40万円ほどの残額が生じた。この残額は翌年度分の調査に使用する予定である。
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