研究課題/領域番号 |
18K18653
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
安武 公一 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (80263664)
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研究分担者 |
多川 孝央 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 准教授 (70304764)
山川 修 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (90230325)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 学習科学 / 協調学習 / 理論モデル / 複雑ネットワーク科学 / 計算社会科学 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,1) 協調学習に関する主要メタファ(理論)を,複雑ネットワーク科学の知見を使って 数理モデル化し,2) 数理化が進む関連諸科学(特に認知 科学)との接合の扉を開くことである.この目的のために研究初年度には,主要メタファの理論的構造と特徴をネットワーク科学と力学系の観点から数学的に抽 出することを目指した文献研究を行ない,研究2年目の今年度は,構成的アプローチに基づいて数学的に構造化した処理論を数理モデル化することが当初の予定であった. 研究初年度には上記のプランを一部変更し,(1)「関係性」を分析の中心に置く圏論(Category Theory)の当該研究への応用の検討,(2)複雑ネットワーク科学の最新の知見の導入,(3)関連国内外カンファレンスへの積極的参加と知見の蓄積,の3点を重点的目標としていた.これらを引き継いだ今年度は,上記の(1) 圏論の応用の可能性,と (2) 複雑ネットワーク上の情報のダイナミクス現象モデルの応用,に特に研究の重点を置いて実施してきた.(1) については日本認知学会で「圏論」に関するセミナーが実施され始めていることから分かるように,「圏論」を人間の認知活動・学習活動をモデル化する際に理論的基盤とするという本研究の方向性は間違ってはいないことを確認している.実際,認知科学会の研究者らとそれぞれの知見を交換する機会を得ることが今年度のひとつのい成果である.(2) については,昨年度からの研究の引き継ぎ事項でありこの可能性を追求することが,次年度(すなわち研究最終年度)の課題のひとつとなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」と評価したのは,まず第一に,上の「研究実績」にも記載したように,前年度同様,研究計画作成時の計画を一部修正したためである.しかも「圏論」による理論モデルの構築は,認知科学会でもほとんど始まったばかりであり,前年度に引き続きその応用をモデル構築に結実させることをまだ完全にはできていないため,「やや遅れている」と評価せざるを得なかった.この点は前年度と同様である. しかしながら上でも述べているように,「圏論」と複雑ネットワーク科学を応用することによって協調学習モデルを構築することは,教育工学・学習科学の分野に限らず認知科学の分野でも現在注目されているテーマである.そのため前年度同様,本研究計画書作成時には検討の対象外であったこの2つのアイデアを融合させること,すなわち「圏論」によって学習の「関係性」を記述し,その概念を「複雑ネットワーク」上でのダイナミクス現象として記述すること,この新しいアプローチを研究最終年度の目標としている. 「やや遅れている」と評価した第二の理由は,新型コロナウィルス感染症の影響拡大により,国内外の移動がきわめて制限され,必要な研究ミーティング,関連諸学会,国内外の研究会・学会に参加することができなかったためである.この点についてはおそらく研究最終年度にも大きな影響があるものと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたように,本研究では研究初年度と今年度に若干の方向性の修正を行なっている.今後は次のようなアプローチによって研究を進める予定である.(1) 今年度に完成できなかった「Multiplex Network上での情報のダイナミクス現象のモデル化」を推進する.このときにわれわれが注目しているのが, (2) 「圏論」を応用した「関係性」の抽象化と理論モデル化,である.昨年度に引き続きこの2点に重点を置き,今後の研究を推進していく. また,研究最終年度である次年度には,関連諸学会での成果発表も実施する予定である.どの会議で発表するかは,現在の新型コロナウィルス感染症によるパンデミックがどの程度収束(終息)しているか,その社会的状況等に依存する.念頭においているのは,International Conference on Web and Social Media 2020, Learning@ Scale 2020, International Conference on Computational Social Sciences 2020, AIED2020, NetSci2021, Complex Networks 2020などである.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた使用額に変更が生じたのは,研究路線を若干修正したことと,2019年度に予定していた国際会議への参加が新型コロナウィルス感染症パンデミックにより尽く変更(中止)となり2020年度の国際会議への参加に振り替えたためである.当初予定していた国際会議への参加は2020年Computational Social Science関係の国際会議での研究発表や参加に振り分ける.加えて研究路線の若干の変更によって理論研究を補完する実証的研究もプランニングしている.具体的にはセンサデータによる実証的検証を次年度に計画している.この目的のためにセンサデータを収集するウェアラブル端末を10台程度購入し実験に使用する予定である.
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