研究課題/領域番号 |
18K18655
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
岡田 宏基 香川大学, 医学部, 教授 (00243775)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | empathy / 多職種連携教育 / 臨床心理学科 |
研究実績の概要 |
香川大学では平成30年度に医学部に臨床心理学科を設置した。1年次生では、医学科1年次生と多職種連携教育(IPE)を行い、この前後で両学科学生のempathyがどのように変化したかを比較することを目的とした。 IPEには入学直後の医学概論、1年後期の早期地域医療・福祉見学実習(医療機関及び老人福祉施設いずれも半日を2回)及びその準備としてのグループワークが含まれる。入学時と、実習終了後に日本語版Jefferson Scale of Empathy-medical students(JSE-S)を採り、両学科での差異を検討した。 医学科学生(MS)(87名)のIPE前後での平均JSE総スコアは113.2と111.5、臨床心理学科学生(PS)(16名)のそれは111.1と111.1でいずれも前後で差がなかった。個々の項目では、10のPerspective Takingの中でPSでは3項目(項目13;非言語的理解,16;患者-医師間での情緒的理解,20;治療に係わる因子としてのempathy)で前から後で有意な低下が見られたが、MSでは1項目(16)のみが低下していた。Compassionate Careについての項目では、MSで1項目(項目11;治療における患者―医師の情緒的結びつき)のみが低下していたが、PSでは変化なかった。 Perspective Taking においてPSでMSより多くの項目でスコアが低下した理由について、これらは患者の感情を理解するという項目群であるが、実習後の時点ではPSは心理学よりむしろ医学・医療についてより多くの学修時間があり、心理学より医学・医療についての知識量が増えたため、患者の理解に際して心理学より医学・医療の比重が大きくなったのではないかと推察する。この傾向については今後臨床心理学科学生が心理学を十分に学修した時点での比較調査を必要とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)研究目的の一つとしていた、empathyについての医学科と臨床心理学科との差異を、多職種連携教育前後でそれぞれ評価することがでした。その結果、心理学を修得することを目的としている臨床心理学科で多職種連携教育後にempathyスコアの幾つかの項目で、医学科に比して有意に低下が見られるという興味深い結果を得ることができた。これについては臨床心理学科学生が今後本来の心理学を学修してゆく課程において、そのスコアがどのように変化して行くのかを追跡するという今後の明確な目的が得られた。 2)実績の概要では文字数の都合で記載できなかったが、多職種連携教育を行った際の両学科のレポートを文章解析ソフトウェアを用いて解析することができた。初年度は、出現する用語の頻度を比較した。その結果、多職種連携教育の始め頃は両学科間で大きな差異は見られなかったが、地域医療福祉実習後の最終レポートにおいては、臨床心理学科学生で、病院、患者、施設、診察という医療に関係する用語の出現頻度が医学科学生に比して高かった。臨床心理学科学生においてはこの期間心理学を学ぶ時間より、医学・医療を学ぶ時間の方が多かったために、このような結果になったのではないかと推察される。また、この事は、empathyスコアの、「心理学的理解」の幾つかの項目で多職種連携教育に低下が見られた結果とも合致する。
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今後の研究の推進方策 |
1)empathy評価表については、医学科、臨床心理学科ともに、2年生の12月頃に実施し、1年次の結果と比較する。1年次生については、前年同様に、入学時と、多職種連携教育後に両学科で実施し、今年度の比較を行うと共に、前年度の結果とも比較する。 2)レポートの解析評価にすいては、前年度同様に、1年次生の多職種連携教育中のレポートを順次電子化し、文章解析ソフトウェアを用いて解析する。今年度は両学科の比較だけでなく、前年度の結果とも比較検討する。 3)前年度のempathyスコアの評価結果について、日本医学教育学会およびAMEE(An International Association for Medical Education)にて報告すべく演題登録を行った。
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次年度使用額が生じた理由 |
挑戦的萌芽研究の採択決定通知が7が1日になったため、8月下旬に出席を検討していたヨーロッパで開催される国際医学教育学会(AMEE)への参加を断念し、シンガポールで開催されたアジア太平洋医学教育学会に参加した。このため旅費に約108,000円の余剰金が生まれた。これを、物品費、謝金、その他にそれぞれ3万円程度を割り振った。 特に人件費・謝金については、手書きのレポートを電子化するために人件費(謝金)を必要としたが、7月以降に4月分からの作業を遡って行ったために、人員の増加を要し、このために人件費・謝金を予定より約33,000円追加を必要とした。
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