この研究の目的は,中山間地域の保全への突破口を切り拓くため,「地表の調和」をテーマとする,土木工学や環境工学の知見を取り入れた「景観」と「食」を一体的にとらえる小中学校における教育実践モデルをつくり,さらには,一般社会人向けの生涯学習への普及も視野に入れている。ここで,「景観」とは,人の活動 (生産や消費)と文化・環境の調和を意味する概念であり,人々の「食」に対する行動が,知識の景観を作ることと表裏一体となっており,「何を食べるか」が 地域の持続的な発展に影響することを,児童・生徒のみならず,一般社会の人々までが理解できるような教材と教育実践の事例を作ろうとしている。そのための教材として,「風景をつくるごはん」のゲームを開発している。 今年度は,「風景」と「食」を一体的に捉える教育ツールとしての「風景をつくるごはん」ゲームを都会向けに改良した。従来は手持ちのボードが中山間地域を表現し,国内の他の農村は別に設けていたが,それでは都会の子供たちには理解しにくいため,手持ちのボードを国内の農村にするなど,地域割りを簡略化した。その分,環境への影響としてハウス栽培など従来農薬の有無だけだったものに新たな環境影響要素を加えた。また,開発したゲームを用いて横浜市の中学校と東京都大田区の親子向けにゲームを実践した。そのほか,教育機会を増やすため,小スペースで実施可能なゲームの開発を行った。シール型になっており,持ち帰りも可能である。大田区で実施された環境イベントで20人程度に対して試行した。 成果発表については,これまでの取り組みについて,日本サイエンスコミュニケーション協会年会で発表し,市民レベルでの概念の共有の可能性について探った。また,本研究の基本概念である「風景をつくるごはん」についての書籍を刊行して,この取り組みの本来の意味や日本の現状と課題について社会に問いかけた。
|