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2019 年度 実施状況報告書

発達障害の幼少期評価と早期介入のための遺伝子エピゲノム指標の確立

研究課題

研究課題/領域番号 18K18663
研究機関聖徳大学

研究代表者

久保田 健夫  聖徳大学, 児童学部, 教授 (70293511)

研究分担者 山口 豊一  聖徳大学, 心理・福祉学部, 教授 (10348154)
腰川 一惠  聖徳大学, 教職研究科, 教授 (70406742)
望月 和樹  山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80423838)
張山 昌論  東北大学, 情報科学研究科, 教授 (10292260)
研究期間 (年度) 2018-06-29 – 2021-03-31
キーワード発達障害 / 養育環境 / 早期介入 / 生物学的指標 / NIRS / 学習効果 / 姿勢 / 運動
研究実績の概要

発達障害児に対し早期から良い環境を提供すれば障害傾向を軽減させられることが保育の現場で経験的に知られてきた。しかし発達を促す良い環境を科学的に判定できる方法はなかった。そこで本研究では、最新の生物学を基盤に発達促進環境を特定する方法の開発を目指すことにした。
本研究では当初、環境の良否の影響を受けて変化するエピゲノム(DNA上の化学修飾)をベースにした指標の開発を予定していた。しかしDNA試料獲得のための血液採取が本研究の対象とする幼児にとって著しく侵襲度が高いことが判明した。
そこで学習課題の負荷で変化し、低侵襲度で測定可能な、NIRS(近赤外光スペクトルスコピー)による脳血流内の酸化・還元ヘモグロビン値をベースにした指標の開発を目指すことにした。
初年度(平成30年度)の末にNIRS測定機器を購入し、第2年度(令和元年度)はこの装置の基本特性と限界を確認した。その結果、成人において「安静時の脳活性化状態に個人差があること」や「計算課題による活性化が認められること」、「定型発達の幼稚園児では本測定機器の装着ができること」、「知的障害時や中等度発達障害児では嫌がって外してしまい装着が難しいこと」が判明した。
以上をふまえ、最終第3年度(令和2年度)は、「脳活性化環境の把握(好きな物と嫌いな物、得意な学習課題と苦手な学習課題の前頭部の活性化の測定)」、「姿勢による学習効果の生物学的検証(良い姿勢で学習課題を行う際の前頭部の活性化と悪い姿勢で行う際の活性化の比較)」、「運動による実行機能改善効果の検証(高齢者において中等度の有酸素運動負荷で右前頭前野が活性化し先入観に惑わされず適切な行動を迅速にできる実行機能が高まるとの報告を受け、幼児や学童においても運動負荷が脳の活性化を介して実行機能が向上することを明らかにする)」の3課題を実施することにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度末に購入したNIRS脳血流測定装置(Spectratech社製 OEG-16)を用いて、第2年度(令和元年度)は、その基本特性と限界を確認した。
その結果、以下の4点が明らかになった。(1)平時の脳活性化状態に個人差があること:具体的にはまず成人を対象に測定を行ってみたところ、ハチマキ状の脳血流検知器を装着し測定を開始した際に、安静時にも関わらず、脳の賦活度が高い(3D脳画像上に赤エリアが広域に出る)被検者と脳の賦活度が低い(3D脳画像上に青エリアが広域に出る)被検者がいることがわかった。(2)課題提供時に活性化が高まること:装着した安静時に脳の賦活度が低い(3D脳画像上に青エリアが広域に出る)被検者に対し計算課題(100から7ずつ引いて行ってもらう課題)を与えると前頭部が赤くなる変化が見られ、脳が活性化されることが判明した。(3)子どもでも装着が可能であること:定型発達の5歳の幼稚園児の頭にハチマキ様のバンドの検出器を装着したところ、5歳児でも成人同様に測定可能であることが確認できた。(4)中等度以上の障害児への装着は容易でないこと:ダウン症や自閉症スペクトラムを有する知的障害児や発達障害児に装着が困難であること(ハチマキ状の脳血流検知器を嫌がってすぐに外してしまう)が判明した。
以上より、次年度は測定が可能な定型発達児(または軽度の発達障害児)を対象にさらなる測定を進めることが良いと考えられた。

今後の研究の推進方策

第2年度のNIRS装置の基本性能と限界の検証結果をふまえ、最終第3年度(令和2年度)は以下の3課題を行う。
(1)前頭部を活性化させる環境の把握:成人に計算課題を与えたところリラックスしていた脳(パソコン画面上の脳画像が青優位)から一転して活性化(赤優位)に変わった。このことから苦手な課題は前頭部を活性化させると解釈された。さらに過剰な英語課題は両側前頭部の、適度な英語課題は片側前頭部を活性化させたとの研究報告もある(岐阜聖徳学園大学 2015)。以上より、子ども一人ひとりの適量の学習量の把握が本装置で可能かを検証する。
(2)姿勢による学習効果の生物学的検証:良い姿勢が本当に学習効果に貢献するかを生物学的に検証する。具体的には正しい姿勢時と悪い姿勢時のそれぞれの学習負荷時の前頭部変化を比較する。これにより悪い姿勢に比べて正しい姿勢が脳を活性化させるのか、リラックスさせるのかを明らかにする。
(3)運動による実行機能改善効果の検証:高齢者の判断力が高まることが明らかにされた。高齢者を対象に中等度の有酸素運動を与えると、与えないよりも、ストループ課題の誤答率が減少すること(赤字で「あお」と書かれたものを見せて、文字に惑わされて青と回答したら誤答、文字に惑わされず赤と回答したら正答とする課題)が報告された(Neurobiol Aging 2012)。また長崎県の特別支援学校では、感覚統合療法の理論の下、発達障害児を机に向かわせる前に身体を動かすことで集中力を高める試みを行ってきた。そこで本研究では運動の学習効果の生物学的検証を目的に、運動負荷による子ども用のストループカードの正答率が向上の有無を明らかにする。
以上により本萌芽研究で、NIRS装置を用いた学習効果の向上のための手法が確立された際は、その手法を軽度発達障害児の発達促進の手立てとして応用していく計画である。

次年度使用額が生じた理由

最終第3年度(令和2年度)には(1)前頭部を活性化させる環境の把握、(2)姿勢による学習効果の生物学的検証、(3)運動による実行機能改善効果の検証の3課題を計画した。
このうち「(1)前頭部を活性化させる環境の把握」は、当初、第2年度(令和元年度)末に実施する予定にしていた。しかしながら研究対象としていた幼児・学童に対する計測の実施が、教育機関における新型コロナウイルスの感染予防の観点から難しくなり、最終第3年度(令和2年度)に延期して実施することにした。これに伴い、必要物品の購入も、最終第3年度(令和2年度)に実施する際に協力教育機関と協議して行うこととなった。
以上のとおり、次年度使用額が生じた理由は研究課題の1つの実施を次年度に延期したためである。
なお令和2年度の当初予算は、残り2つの研究課題「(2)姿勢による学習効果の生物学的検証」と「(3)運動による実行機能改善効果」の実施に充てる計画である。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件)

  • [雑誌論文] Epigenetic regulation of lipoprotein lipase gene via BRD4, which is potentially associated with adipocyte differentiation and insulinresistance.2019

    • 著者名/発表者名
      Inoue T, Hariya N, Imamochi Y, Dey A, Ozato K, Goda T, Kubota T, Mochizuki K
    • 雑誌名

      Eur J Pharmacol

      巻: 858 ページ: -

    • DOI

      10.1016/j.ejphar.2019.172492

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] An epigenome-wide analysis of cord blood DNA methylations reveals sex-specific effect of exposure to bisphenol A.2019

    • 著者名/発表者名
      Miura R, Araki A, Minatoya M, Miyake K, Chen ML, Kobayashi S, Miyashita C, Yamamoto J, Matsumura T, Ishizuka M, Kubota T, Kishi R
    • 雑誌名

      Sci Rep

      巻: 9 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41598-019-48916-5

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Importance of early educational intervention for children based on reversibility of environmental stress-induced epigenetic alterations.2019

    • 著者名/発表者名
      Kubota T, Mochizuki K
    • 雑誌名

      Stress Brain and Behavior

      巻: 1 ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 連載 健康寿命延伸に寄与する体力医学「先進諸国民の健康を脅かしている生活習慣病の最上流因子~DOHaDとエピジェネティクス」2019

    • 著者名/発表者名
      久保田健夫
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 268 ページ: 949-954

  • [雑誌論文] II. トピック 1. DOHaD -次世代の健康を守る科学-. 知ってきおきたい小児の栄養2019

    • 著者名/発表者名
      久保田健夫、望月和樹
    • 雑誌名

      小児科臨床

      巻: 72 ページ: 405-409

  • [学会発表] 本邦におけるICF症候群の臨床的および免疫学的検討2019

    • 著者名/発表者名
      釜江智佳子、今井耕輔、加藤 環、岡野 翼、本間健一、中川紀子、野口恵美子、久保田健夫、森尾友宏、金兼弘和、野々山恵章
    • 学会等名
      第122回日本小児科学会学術集会
  • [学会発表] 創発性・協働性を促す外遊びの中の発話の園児間構造分析が示唆する発達2019

    • 著者名/発表者名
      金澤 亮、Kevin Jay Singh、鈴木峻介、花朱 迪、陶 テイ、横田澄絵、久保田健夫、仙田 満、谷口 新、大豆生田啓友、小柴満美子、渡辺 英則、張山昌論
    • 学会等名
      こども環境学会2019年大会
  • [学会発表] 長期計画委員会企画ワークショップ 長期計画委員会から理事への提言案 2)Bioethics in the field of child neurology mainly about prenatal diagnosis (小児神経学分野における生命倫理 出生前診断を中心に)2019

    • 著者名/発表者名
      口分田政夫、鶴澤礼実、福與なおみ、久保田健夫、小倉加恵子
    • 学会等名
      第61回日本小児神経学会総会
  • [学会発表] 幼稚園の発達支援巡回に医師が加わることになった背景. 自主シンポジウム 「発達障害に対する臨床心理士と医師の幼稚園巡回訪問体制の確立とその効果 -発達障害の早期介入効果を高める新支援モデル-」2019

    • 著者名/発表者名
      久保田健夫
    • 学会等名
      日本心理臨床学会第38回大会
  • [学会発表] 話題提供2 医師の視点からみた特別支援教育推進のための人材育成の要件. 自主シンポジウム 特別支援教育の大学院教育:現場のリーダーとなる小学校教諭と幼稚園教諭の育成の在り方と方向性2019

    • 著者名/発表者名
      久保田健夫
    • 学会等名
      日本LD学会第28回大会
  • [学会発表] 幼稚園の園行事における障害傾向を有する幼児の特性を踏まえた合理的配慮2019

    • 著者名/発表者名
      三島秀晃、久保田健夫、太田裕子
    • 学会等名
      日本LD学会第28回大会
  • [学会発表] 代謝疾患予防のための早期分子指標. ワークショップ「先制医学実現のための精神疾患・代謝疾患の分子生物学的指標の確立」2019

    • 著者名/発表者名
      久保田健夫、望月和樹
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 生物学的指標に根ざした発達障害の二次障害予防のための先制医療戦略. ワークショップ「先制医学実現のための精神疾患・代謝疾患の分子生物学的指標の確立」2019

    • 著者名/発表者名
      望月和樹、針谷夏代、本間一江、竹田裕子、合田敏尚、久保田健夫
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会年会

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公開日: 2021-01-27  

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