研究実績の概要 |
発達障害は、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される疾患群 (DSM-5)である。発達障害はその障害の質や程度に違いがあっても、視覚認知に歪みがある点で共通している(Simmons et al., 2009, Handler, et al., 2011)。視覚はその成立基盤に後頭葉・側頭葉・頭頂葉の機能がかかわる。さらに、意志に基づく情報選択や注意の移動は前頭前野および前頭眼野の機能を映し出す。また、視覚刺激によって、行動抑制やワーキングメモリなどの前頭葉機能を測定することもできる。そうした点で、系統的視機能評価は発達障害の認知神経学的な問題点を明らかにするポテンシャルをもっている。 平成28年改正発達障害者支援法および障害者差別解消法により、合理的配慮が義務化され、新学習指導要領にも記載された。認知神経科学的根拠に基づいた「合理的配慮」のあり方を考えるために、本研究では、系統的視機能評価に加え、広範な皮質間ネットワークを反映する視線計測と自律神経系機能を直接観察できる瞳孔計測を実施する。また、近年、自閉症スペクトラム症で、錯視が生じにくいことやカニッツアザ図形等で主観的輪郭が生じにくいことが報告されている(Stroganova et al., 2012, Chouinard et al., 2018)。そこで、本研究の実施に、脳波による主観的輪郭成立にかかわる脳内過程の分析を加えた。 発達障害者・児および健常人・児の視機能について、①網膜から第1次視覚野を基盤とする視覚情報を符号化する能力、②第1次視覚野から腹側および背側視覚野を基盤とする入力情報の高次視覚への変換能力、③頭頂・後頭・側頭領域から前頭眼野を基盤とする眼位および眼球運動制御能力、④高次脳機能(ワーキングメモリ・行動の抑制・語彙発達)を評価した。
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