二名の被験者がディスプレイ越しに互いに顔を見る状況において,2名に対し同時アイトラッキングするシステムを構築した.これにより,アイコンタクトなど視線に関するコミュニケーションの計測・可視化システムを構築すると同時に,視線による意思や意図の読み取りに関する基礎データを採取することを目的とした.被験者の顔はライフサイズが自然にモニタ内に見えるよう比較的大き目に設定し,アイトラッキングは2000Hzと世界最速の部類の同時計測を実施した.アイトラッキングデータの取得そのものには成功し,2名の同時アイトラッキング自体には成功した.しかし,幾つかのデータ解析手法を試してみたものの,2名が互いに目を合わせたりそらせたりする様子を明快に可視化するには至らなかった.アイトラッキングデータに限らず,2名の被験者の生理学的データを同時記録すること自体は様々なセンサで世界中で実施されているが,それらの明確な計測・可視化技法はまだ確立されていない.本研究においても,このデータ解析部分に関する問題点が明るみになったといえ,今後時間的・空間的に移動を続ける二つのアイトラッキングデータに対する可視化技法の開発が必要であるとの知見を得た.また,先行研究の多くは,会話中や食事中など2名以上の人間が自由にインタラクションする課題下での実験を実施しているが,本研究では実験機材の制約の問題から,被験者の頭部運動を最小限に抑える必要があり,このような自然なコミュニケーション課題を課すことができなかった.このような課題の制約も,2名の同時アイトラッキングから明快な傾向を導き出せなかった要因の一つであると考えられ,今後の改善が必要である.
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