研究実績の概要 |
私たちの視覚は、注意と記憶の二つの段階で、一度に処理できる容量が極めて少数に限られる。それにも関わらず、「目の前のすべてが見える」と主観的に感じるのはなぜだろうか。従来の研究は容量制約を示すに留まっており、この問題を直接扱ってこなかった。そこで本研究では、解明への突破口を目指し、「主観的に見えている感覚」の成り立ちについて、脳機序も含めて直接検討する。「主観的に見えている感覚」の特徴は、物体が目の前にある時はすべてが見え、物体が消えると速やかに見えなくなったと感じることにある。この特徴は、これまで意識との関わりでは取り上げられなかった「感覚記憶(Sperling, 1960, Psychol Monogr)」が対応すると考えられる。そこで本研究では全体の計画として、感覚記憶について、(1)心理学実験による心的メカニズムの検討と、(2)脳波実験による神経科学的メカニズムの検討を進める。 今年度はまず、(1)心理学実験による心的メカニズムの検討を進めた。研究代表者らの過去の検討から、感覚記憶の持続時間は、従来考えられてきたよりも長く続く可能性が示されていたため(Tsubomi et al., 2017, VSS)、Sperling(1960)のオリジナルの実験と同じパラダイムを再現し、感覚記憶の基本的な性質について検討した。その結果、感覚記憶は従来想定されてきていた0.5秒よりも長い間、少なくとも2秒程度持続することを新たに見出した。これは、Sperling(1960)の研究において見逃されていた解析法に注目した結果であり、現在は、どのような性質が従来の結果との違いを示すに至ったのかについて、さらに検討を進めている。
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