研究実績の概要 |
私たちの視覚は、注意と記憶の二つの段階で、一度に処理できる容量が極めて少数に限られる。それにも関わらず、「目の前のすべてが見える」と主観的に感じるのはなぜだろうか。従来の研究は容量制約を示すに留まっており、この問題を直接扱ってこなかった。そこで本研究では、解明への突破口を目指し、「主観的に見えている感覚」の成り立ちについて直接検討する。「主観的に見えている感覚」の特徴は、物体が目の前にある時はすべてが見え、物体が消えると速やかに見えなくなったと感じることにある。この特徴は、これまで意識との関わりでは取り上げられなかった「感覚記憶(Sperling, 1960, Psychol Monogr)」が対応する。そこで本研究では、感覚記憶について、(1)心理学実験による心的メカニズムの検討と、(2)脳波実験による神経科学的メカニズムの検討を進める。過年度の研究において、Sperling(1960)と同じパラダイムを用いて実験したところ、感覚記憶は従来想定されてきていた0.5秒よりも長い間、少なくとも2秒程度持続することを新たに見出していた。これは、Sperling(1960)の研究において見逃されていた実験・解析法に注目した結果である。今年度は、感覚記憶の測定法の違いに焦点を当て、なぜ測り方によって持続時間の見積もりの差がでるかを検討する予定であったが、コロナ禍においてデータの取得がやや滞った。そこで、これまでに取得したデータについて、検定力やサンプルサイズの妥当性について検討することで、次に行う実験の妥当性を確かめる期間とした。次年度はこれを元に行動データを取得し終え、一定の結論を導く予定である。また(2)の脳波実験についても、コロナ禍において実施が困難な状況にあるが、状況を見ながら実験を進めたい。
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