研究課題/領域番号 |
18K18695
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中西 義孝 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (90304740)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 粘性流体 / 皮膚 / ニュートン流体 / 非ニュートン流体 / こころ / 生理学的指標 |
研究実績の概要 |
“ぬるぬる”とした粘性液体を手のひらに存在させることを日常生活で絶えず経験する。その目的は粘性液体の特性により異なるが、皮膚の摩擦制御であったり、皮膚の洗浄や保湿などさまざまである。手のひらに粘性液体を介して物理的な刺激が与えられれば、ヒトのこころにも様々な変化が現れる。本年度の研究では、生理学的指標を用いて、手のひらに粘性液体を保持することによって引き起こされる感情的変化を調べた。 粘性液体として粘性の異なるニュートン流体および非ニュートン流体を準備した。ニュートン流体はシリコーンオイルにて、非ニュートン流体はポリエチレングリコールの分子量および濃度を調整して準備した。室温を20℃に設定し、各粘性液体は被験者に見えない状態で22℃、33℃および43℃の一定値に維持した。被験者にはあらかじめポータブル心拍計を装着させ、イスに着席後、自然な状態で休息を取るように依頼した。粘性液体の触れ方については被験者の希望通りとした。唾液アミラーゼ量を計測した。唾液アミラーゼ濃度(kIL/L)は一般的に交感神経の活動の指標となることが知られている。ポータブル心拍計より得られた各心拍間隔の揺らぎを解析し、自律神経の活動度の指標として0.04-0.15Hz帯のパワーを,副交感神経の活動度の指標として0.15-0.4Hz帯のパワー(ms2/Hz)をそれぞれ求めた。また交感神経の活動度の指標は、0.04-0.15Hz帯のパワー(ms2/Hz)を0.15-0.4Hz帯のパワー(ms2/Hz)で除したものを適用した。これらの研究はすべて倫理審査委員会の判定に基づき許可された計画において実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度が低い粘性流体に触れると交感神経の活動度が下がり、副交感神経の活動度は上がる傾向にあった。これらの傾向は粘性流体の温度に影響を受けにくいことも判明した。唾液アミラーゼ濃度は粘度が低い時に低下する傾向にあり、一般的に言われていた交感神経との連携は見られなかった。ヒト皮膚の温度感覚が鈍ると言われている33℃の粘性流体では、交感神経も副交感も活動の変化は小さいにもかかわらず、唾液アミラーゼ濃度については上昇する傾向にあった。心地よい、官能的、気持ち悪い、嫌悪感、などを視覚的表現したアイコンを整備し、SD法(Semantic Differential Method)に相当する調査も実施した。これは“こころ”の状態をアイコンで直接的に表現できる方法であり、この結果と上記の生理学的指標の相関を求める方法についてほぼ方針が成立した。 これらの研究については、皮膚/粘性流体/皮膚の滑りで実施していた。将来展望として、製品と皮膚の触れ合いについても検証を実施することが必要であるため、その準備段階としてガラスと皮膚の滑りについての制御および測定に関する準備を実施した。同じガラス素材でも表面をマイクロレベルで微細加工することにより、濡れ性などの特性が変化することを実験的に確認した。ヒト手指との摩擦係数を微視的な接触状態を観察しながら測定できる装置を開発した。ヒト皮膚などに特異的に発生するスティック・スリップ現象なども把握できる精度を有していることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
粘性流体の粘性特性と温度のみをパラメータとした研究を行ってきた。この研究計画に“視覚”がプラスされた状態の影響を調査するシステム作りを行う計画である。具体的には、着色した各粘性流体を利用する。また、皮膚の対象部位を手のひらから足へ拡大する計画である。この触覚を通じた刺激に関する試験は皮膚/粘性流体/皮膚の滑りで実施していたが、前年度までに開発が終了した試験装置をつかい、製品と皮膚の触れ合いについても検証を実施する。 さらには視覚に特化した、すなわち皮膚感覚を除外した研究も実施する。例えば、各流体の吐出口または付着面(の映像)を変化させた影響についても調査する。 各種の粘性流体を工学的に的確に分類・表現できる方法をさらに探求し、粘性流体の表現・分類パラメータの明確化に努める。この粘性液体により触覚(手・足)または視覚から刺激されたときのヒトのこころを生理学的指標にて測定し、SD法との相関をとることで、ヒトの暮らしの質を向上させるプロダクトやコンテンツを提案できるようにする。
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