“ぬるぬる”とした粘性液体が身体と接触することを日常生活で絶えず経験する。粘性液体を介して物理的な刺激が与えられれば、ヒトのこころにも様々な変化が現れる。 本研究では、粘性流体をニュートン流体と非ニュートン流体に区分し、それぞれの粘性流体へ手部を浸し、手のひら同士を摩擦させたときの、こころの変化と生理学的指標(自律神経活動変化)を調べた。ニュートン流体とは粘性流体のせん断速度に依存せず、ほぼ同じ粘度を示すものであり、ポリビニルアルコール水溶液にて調整した。非ニュートン流体にはせん断速度の増加にともない粘度が低下するものを選んだ。この粘性特性は自然界や生命体で多用されている特性であり、ポリエチレングリコール水溶液にて調整した。 ニュートン流体の場合、粘度が低いと受け取った感覚は被験者によりさまざまで、中には驚いたり、満足したり、という感情を抱く被験者がいた。粘度が上がると、不快を感じる被験者がほとんどとなるが、さらに粘度が上がりジェル状になると、驚いたり、満足したりする感情が再発する被験者もいた。このようなこころの変化は自律神経活動のうち、副交感神経の活動が低下することに起因する可能性が示唆された。 非ニュートン流体の場合、被験者が感じる感情はほぼ同じ傾向で、粘度が上がるにつれて不快であるが心地よさも含まれる感覚を受ける傾向が強くなった。ただし、自然界で慣れ親しんだ粘性特性であるがゆえに、自律神経系の活動変化は被験者間でバラバラで、皮膚への特異的なせん断刺激が身体に与える影響はほとんどないと推測できた。 これらの研究活動から多数の分岐研究が発足した。直接的には化粧品(保湿剤)の開発において心地よいという感覚に基づいた設計プロジェクトが発足した。さらに、触感を知るための試みとしてガラス面の微細加工とヒト皮膚との接触問題を製品開発ならびに国際共同研究に進展できた。
|