最終年度は,これまでの実験を総括した上で,さらに考えを一歩進め,「人はこうしたメタ動機づけの認知を通して,どのような動機づけ方略を選択しているのか」という問題を考えた。具体的には,学習者が自分自身を動機づけるための「自己動機づけ方略」に関して,研究代表者が過去に集めたデータをもとに分類し,将来的な介入研究のための道筋をつけた。また,これまでに投稿した論文の修正などを行った。
研究期間全体を通して,次のような成果があげられる。第一に,「動機づけ予測パラダイム」というメタ動機づけを調べるための新しいパラダイムを確立し,人が自分の動機づけを正確に予測できるかどうかを正確に測定するための土台を作った。第二に,この新しいパラダイムを用いて,人のメタ動機づけの正確さを調べたところ,人はつまらない課題に対して動機づけの程度を過小評価する(面白くないと思うが,思ったよりも実際は楽しめる)ことが分かった。一方で,外発的報酬が与えられたときは,人は自分の将来の動機づけを過大評価をすることが分かった。第三に,親子の縦断調査データを用いたところ,親の子どもに対する動機づけの認知(親の子どもにたいするメタ動機づけ)が,子どもの実際の動機づけに影響を与えることが明らかになった。もともとは子どもの動機づけ状態が親の子どもに対する動機づけの認知に影響を与えるという仮説であったが,それとは逆の効果が出たことは興味深かった。第四に,確立したパラダイムを,人が好奇心をもって情報探索をするような状況において適用すると,「好奇心が情報探索に与える影響を過小評価する」という結果が得られた。つまり,これまでに得られた結果は情報探索行動や好奇心といった概念にも適用できることが明らかになった。これらの結果をまとめて,人のメタ動機づけに関する一つの仮説的なモデルを論文の一部として出版した。
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