研究課題/領域番号 |
18K18697
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研究機関 | 医療創生大学 |
研究代表者 |
大原 貴弘 医療創生大学, 心理学部, 教授 (00347973)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 面影 / 顔認知 / 感性 / 類似度 |
研究実績の概要 |
眼前の顔や風景を見た時、今はそこにない、かつての容貌や雰囲気を感じる心理現象は、日本において「面影」という概念で表現されてきた。本研究の目的は「面影」を感じる心理過程を認知心理学の観点から捉えることである。 本年度は昨年度に引き続き、日常生活において「面影」という言葉がどのような意味で捉えられているかについて、概念分析を実施した。具体的には、大学生を対象として、「面影」の意味や使い方などについて自由回答をしてもらい、回答内の頻出語について分析を行った。さらに、日本語表現における「面影」の用いられ方や他の言葉との共起関係を検討するため、「日本語コーパス」を用いたコロケーション分析を行った。 自由回答調査の結果、「面影」に関わる頻出語として「似る」「昔」「見る」「顔」などが抽出され、「人や風景を見たとき、過去と比べて、顔や雰囲気が似ていると感じること」といった典型的意味が共有されていることが示された。またコロケーション分析の結果からは、「面影」は単に「似ている」ことではなく、似ている対象が(過去・未来の同一人物・風景や、血縁者など)時間的関係を持つ場合に用いられやすいことなどが示された。以上の結果については、「「面影」の認知に関わる心理学的考察」という題目で学会発表した(東北心理学会第73回大会)。 また、顔認知研究や記憶研究などの先行文献に基づき、「「面影」に関わる心理的過程」について論文発表した(医療創生大学研究紀要 人文学・社会科学・情報学篇 第5号)。 さらに、顔写真を見た時に生じる「面影」の主観的体験についても検討を始めた。具体的には、インターネットなどで有名人の若い頃の写真を収集し、「面影」を感じやすい(感じにくい)写真の選別を行った。今後、選別した写真を使用し、面影評価と類似度評価・時間評価との関係の検討や、「面影」を誘発させる外的要因の検討などを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は「面影」に関わる感性評定研究の実施を計画していた。この調査研究においては、被調査者として大学生に協力してもらい、評定刺激として有名人の幼少期の顔写真を使用する予定であった。しかし、インターネットでの顔写真の収集には人選や画質などの面で制約があり、さらに、有名人の既知度には学生間でばらつきがあった。そのため、刺激選定に予定していたよりも時間を要し、調査研究に遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、「面影」という概念がどのような意味・イメージで捉えられているかについての調査を継続し、その概念構造を特定する。具体的には、「面影」という言葉の意味や使い方などについての自由回答調査から得られた頻出語と「面影」の意味的関連度について評定調査を実施する。その結果についてクラスター分析などを行うことで、関連語の分類・整理を試みる。 また、本研究では「面影」を顔(写真)の認識に伴う感性評価の一つとして捉える。そこで、面影評価とそれに関連する印象評価間の比較を行う予定である。具体的には、有名人の若い頃の顔写真に対して、面影評価とともに類似度評価や時間的評価などを行う。これにより、「面影がある」という評価が「似ている」や「古い、懐かしい」などといった評価とどのような共通点と相違点を持つかについて検討してゆく。 さらに、顔に対する「面影」を誘発させる外的要因の特定も予定している。具体的には、有名人の若い頃の顔写真やそれを体系的に加工した写真などを準備する。これらの刺激を呈示し、その人物の現在の「面影」を感じる特徴(部位や範囲など)の報告や、面影度の評価などを求める。これにより、「面影」を誘発させる外的要因の分類・整理を試みる。 本研究では、「面影」を単なる記憶表象の想起として捉えるのではなく、「面影を探す」や「面影を重ねる」といった、想起した表象を眼前の対象や場所に定位・投影する心理機能であると仮定する。そこで、人物の顔に「面影」を感じることにより、記憶表象がどのように変容しうるかについても探索的に検討することを計画している。また、「面影」を感じているときの眼球運動を測定し、「面影」の認知に伴う能動的な定位反応特性についての検討も計画している。 また、以上のような研究成果が、人物の顔だけでなく、風景・情景に「面影」を認知した際にも当てはまるかについても考察してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
面影の感性評価などの実験に使用する刺激の選別に時間を要したため、実験実施に必要な機器の購入や謝金の使用がなかったため。
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