研究課題/領域番号 |
18K18697
|
研究機関 | 医療創生大学 |
研究代表者 |
大原 貴弘 医療創生大学, 心理学部, 教授 (00347973)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
|
キーワード | 面影 / 記憶 / 顔認知 / 概念研究 |
研究実績の概要 |
眼前の顔や風景を見た時、今はそこにない、かつての容貌や雰囲気を感じとる心理現象は、古来、日本において「面影」という概念で表現されてきた。本研究の目的は 「面影」を感じる心理過程を認知心理学の観点から捉えることである。 本年度は、「面影」という概念が現在、どのような意味で把握されているかに関する概念調査を完了した。昨年度は、(1)「面影」という言葉・概念が現在どのような意味を持つか、どのような時に用いられているかについて、大学生164名を対象に自由回答による予備調査を実施した。 (2)本年度は、この予備調査において出現頻度の多かった語群50組(昔・過去、似ている、顔・顔つき など)を抽出し、それぞれの語群がどのくらい「面影」と意味的に関連があるかについて、高校生、大学生ならびに社会人からなる138名を対象に5件法で評定調査を行った。評定値が高かった25個を中心概念とみなし、その評定値に対して因子分析を行った結果、「面影」概念が、「容貌・類似」因子、「時間・懐古」因子、「記憶・想起」因子、「心像」因子ならびに「血縁」因子の5因子から構成されることを明らかにした。 (3)以上の知見に基づき、「面影」の認知過程はその特性から二つに大別できることを提唱した。一方は、眼前対象内に記憶表象との類似性が顕著に含まれている場合に、その知覚情報によって外発的に認知される「知覚優位型面影」である。もう一方は、眼前対象と記憶表象の間の類似性は低いが、両者間に時間的連続性(同一性)が保たれている場合に、記憶表象の想起によって内発的に認知される「記憶優位型面影」である。 以上の研究成果は、医療創生大学研究紀要 第34号において、「心理学から見た「面影」の概念構造」という題目で発表した。さらに本年度は、今後の実験研究に向けて、既知度や想起容易性の高い有名人の幼少期の写真を収集するための予備調査を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、「面影」の概念や意味についての調査研究を実施し、その後、「面影」認知の外的要因ならびに「面影」の可視化についての実験研究を計画していた。 概念調査研究においては、できるだけ幅広い年齢層の人達からの回答を必要としたが、コロナ禍により調査実施が遅れたため、当初予定していたよりも調査に時間を要することになった。 また、「面影」認知の外的要因や「面影」の可視化の検討においては、有名人の幼少期の顔写真が必要とであった。そこで、その人物・写真選別のための予備調査を行った。具体的な調査方法としては、まず有名人の名前のリストを提示し、それぞれの人物を知っているか(既知度)、顔を思い浮かべられるか(想起容易性)といった評価を求めた。さらにこの調査結果に基づいて選別した有名人の幼少期の顔写真をインターネットなどで収集し、その写真に対する面影の感じやすさ(面影認知度)を調べる調査を行った。以上の一連の調査において、有名人の既知度や想起容易性、面影認知度には個人差があったため、その人物・写真選別に当初予定していたよりも手間と時間を要した。 さらに、有名人の幼少期の顔写真をもとに、刺激作成をする上で、モーフィングやレタッチなどの加工をする必要があったが、今回の研究目的を遂行する上で、どの加工方法がもっとも適切かを探ることになった。結果的に逆相関法を用いる予定となったが、そこに至るまでの模索にも予定していたより時間がかかってしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、「面影」認知の外的要因ならびに「面影」の可視化について検討する。特に、有名人の幼少期の顔に含まれるどのような視覚情報が、現在のその人物の「面影」を誘発するのかについて検討するとともに、「面影」を強く感じる顔画像の作成を試みる予定である。 具体的には、逆相関法(reverse correlation method)を用いて、面影誘発画像の作成とその評価分析を試みる。この手法ではまず、これまでの予備調査に基づいて選別した(既知度・想起容易性の高い)有名人の幼少期の顔画像を準備・加工し、これらの顔画像に正弦波ノイズを重ねた画像刺激を複数作成する。そして、各画像に対して各有名人の「面影」を感じるか否かの回答を求める。「面影」を感じると回答された画像を平均化することで、その有名人の「面影」を感じる分類画像(classification image)を作成し、「面影」の可視化を試みる。 さらに、作成した分類画像に対して、面影認知度に関する主観的評価課題ならびに客観的な画像分析などを行うことで、分類画像の妥当性・信頼性を検討するとともに、「面影」認知の外的要因についても検討する。 そして、最終年度として、これまでの研究の総括を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「面影」認知の外的要因の検討については、刺激画像の選別に当初の予定よりも時間を要した。その結果、刺激加工や実験制御に必要なパソコンなどの設備機器用の物品費の執行が一部遅れることとなった。 また、コロナ感染拡大に伴い学会の多くがオンライン開催となった。そのため、学会参加に伴う出張旅費が発生しなくなった。
|