研究実績の概要 |
近年の研究では、体力が高い子供ほど記憶機能が優れていることが示されている。これらの知見を再現・発展させるため、研究代表者は先行研究とは異なる記憶課題を用い、子供の体力と記憶機能の関係を検討した。ところが、体力が低い子供の方が記憶課題の正答率が高いという、先行研究に反する予想外の結果が得られた。これまでの研究では明らかにされていない、体力が低い子供の方が優れている脳機能があるのだろうか? 記憶課題の再認テストでの反応は、確信度により「はっきりと覚えている」(Remember)、「何となく覚えている」(Know)、「全く覚えていない」(Guess)の3つに分けることができる。先行研究(Voss et al., 2009, Nat Neurosci)に従えば、潜在記憶によるGuess反応が記憶パフォーマンスを向上させることがあると示唆される。また、これまでの多くの研究によって、体力の低い子供は注意機能が劣っていることが示されている。よって、上述の研究代表者の研究では、体力の低い子供の方が注意機能が低いため、潜在記憶に依存したGuess反応が多くなり、正答率が高くなったのではないかと推論した。そこで、本研究では潜在記憶に注目し、子供の体力と記憶機能の関係を明らかにすることを目的とした。 小学3年生と5年生を対象に記憶課題を実施した結果、確信度にかかわらず体力と記憶パフォーマンスの間に関係が認められなかった。つまり、我々の仮説が棄却されたのみではなく、先行研究と同じ記憶課題を用いているにもかかわらず、先行研究の知見を再現できなかった。研究参加者の特性(本研究の参加者の記憶機能が高すぎたこと)が、先行研究を再現できなかった要因であろうと考えている。今後は、参加者の特性を考慮した研究が求められる。
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