研究課題/領域番号 |
18K18704
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
林 直保子 関西大学, 社会学部, 教授 (00302654)
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研究分担者 |
与謝野 有紀 関西大学, 社会学部, 教授 (00230673)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 信頼 / 信頼性 / 社会関係資本 / 潜在連合テスト / ブランド / ブランディング |
研究実績の概要 |
2019年度については、まず2018年度に開発した音声を利用したIATの開発をさらに展開し、他者への信頼感の測定について検討した。また、信頼感の測定に関するこれらの検討の過程で理論的な整理も同時に進展した。信頼性評価とその維持に関する理論的な検討の結果、本研究のテーマであるディペンダビリティは、他者への信頼感と信頼性の両者を包括的に検討するための概念であるが、そこにおける課題がマーケティング分野におけるブランディングあるいはブランドの維持と同等のものと見なせることが明らかになってきた。信頼感の獲得は識別された指標が、どのような概念と連合するかという課題として見なせることがIATの設計で強く認識されるようになったが、この点は、ブランドの確立と全く同型の構造を持つことが整理された。実証的にもこの点を補強するために200年に近い歴史を持つ事業者へのインタビューを行い、顧客からの信頼感を維持するために信頼性を担保することの困難さ、費用の高さを認識するとともに、ブランドを維持するコストが信頼感を維持する信頼性担保のコストであることが経験的にも確認された。一方、前述の理論的検討から、信頼性の担保だけでは信頼感の維持、あるいはブランドの維持には十分ではなく、こうした信頼性がブランドと連合し続けるような仕組みの導入が必要であることも分かってきた。これらの理論的検討から、社会的信頼感を測定する実験の設計において、商品ブランドへのイメージ測定の技法が援用できることが認識された。 こうした理論的検討の結果、IATで用いる複数のテスト語群を整備し、その測定結果とジレンマ実験などにおける行動指標との関連性を検討する準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、理論的検討を背景とした信頼測定IATの開発、および、その測定結果とジレンマ実験など行動指標との関連を測定することを計画しており、2020年2,3月期において、学生を実験参加者として実験実施することを予定していた。しかしながら、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、学生を実験参加者として実験を行うことが困難となったため、2019年度は実験の実施を見合わせることとした。この結果、実験の実施については、実験参加者の安全性の確保を第一にしたうえで、2020年度に実施を予定することとした。そのため、いくぶんの研究遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までの研究成果を踏まえ、以下のように研究を推進する予定である。第一に、新型コロナウイルスの蔓延を踏まえ、実験参加者、実験実施者のいずれもの感染リスクがないように、音声型IATの実施方法の改善を検討する。当初検討されていた音声型IATの実施は、実験実施者が実験参加者に直接指示し、その後、実験参加者は紙筆をもちいて回答するという形で予定されていた。しかしながら、この方式は静謐な密室での複数人滞在での実施を前提とするため、感染リスクが存在する。インターネットを用いるなどの形で、遠隔から自宅などの安全な環境で実施できるような手法の検討を行う。ただし、新型コロナウイルスの蔓延の状況によっては、研究室で感染リスクを最小限におさえた(直接の会話がほとんどなく、複数人が同時に同一の部屋にいることのないような)手法についても検討する。第二に、ジレンマ実験など、音声型IATで測定した指標との関連を検討する行動指標を得るための実験方法を再検討する。これは、先に述べた新型コロナウイルスの蔓延をめぐる音声型IATの実施の再検討と同一の課題である。第三に、歴史ある事業者などの聞き取りをさらに進め、信頼構築とブランディングの関係を実証的に整理するとともに、コミュニティネットワークがブランドの維持、生成にどのような影響をもたらすかを明らかにする。第四に、これらの実験、聞き取り、理論的検討の結果を総合し、ディペンダビリティ概念を明確に提示するとともに、その有効性を論文などで公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延に伴い、学生を実験参加者として実験を行うことが困難となり、2019年度は実験の実施を見合わせることとした結果、次年度使用額が生じた。当初の実験計画を変大幅に更し、2020年度に新規に実施予定である。
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