研究課題/領域番号 |
18K18712
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
金子 昌信 九州大学, 数理学研究院, 教授 (70202017)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 楕円モジュラー j-関数 / 実二次無理数 / 類数 / Kronecker 極限公式 / データ関数 |
研究実績の概要 |
Hirzebruch-Zagierの定理,すなわち,素判別式をもつ虚2次体の類数を,その判別式の絶対値である実2次無理数を連分数展開したときの周期に現れる数の交代和によって与える公式,が半世紀近く前から知られている. そこに現れる素数は4で割った余りが3のものであるが,これを1余る場合にも拡張し,またより一般的な類似の結果をいくらでも生み出せるような,2次体の種指標のL関数についての一般的な定理を,徳島大の水野義紀と共同で研究し,その論文が本年度 Journal of London Mathematical Societyに掲載出版された.これについて本年度,台湾の理論科学研究センターのセミナーで発表した(オンライン).これは実2次体のKronecker極限公式の,全整数環とは限らない整環への一般化を与えるものであり,本研究課題の遂行に大きな役割を果たしうる研究と思われるため,様々な応用も含めなお研究が進行中である. 立谷洋平,Carsten Elsnerと共同で行った古典的なテータ関数の値の代数独立性,超越性に関する研究論文は本年度Journal of Ramanujan Mathematical Societyに掲載出版された.ここでの手法を応用して,楕円モジュラー関数の実2次点での値の超越性にも何か道が開けないものかを探る研究の継続を企図したが,対面での議論を思うように行えずに,進展を得ることはできなかった. 実2次体の caliber についての以前の研究を,3次体へと展開した.研究指導を行っている大学院生中園大雅は大きなクラスの3次体で,caliber が1のものをすべて決定した.3次体の類数とモジュラー関数の研究は古く Dedekind が行っているが,その研究との関連や,本課題との結びつきを探った.具体的な成果にはまだ至っていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は年度当初から終わりまで,新型コロナ感染症の大きな影響のもと,研究活動も多大な制約を受けた.その中で,3次体の caliber についての研究結果は,非常にすぐれたものと考えるが,本研究の目的とするところとの関連,とくにモジュラー関数との結びつきは,今のところ薄いと言わざるを得ない.従来より大きな,また具体的な目的としている, 2009年に代表者が提出した,j関数の実2次無理数での値に関する予想を進展させることが,思うように進んでいないことが,研究が遅れているとする最大の理由である.しかしながら,今年度に行った,今後の研究方向,計画についての,名古屋大学に職を得た松坂俊輝との議論は大変実りあるもので,「モジュラー結び目」をキーワードとしていくつもの魅力的な方向性を具体的に言語化することが出来た. 代表者の研究のもう一つの柱である多重ゼータ値の研究との関連も,モジュラー形式が絡んでくると,本研究と間接的には関連することになるのであるが,その糸口を見つけることがまだ出来ていない.しかし最近になって名古屋大学の Henrik Bachmannが,有限二重オイラー和とモジュラー形式の周期多項式との関連を示唆する観察を知らせてきており,今年度に研究を行った,レベル2の有限多重ゼータ値の観点から関連を探るという課題が浮かび上がった.しかしこれも実質は次年度以降の研究となり,今年度の研究進捗状況はやや遅れていると言わざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症の状況を見据えながらのこととなるが,引き続き,モックモジュラー形式,調和マース形式などの関連研究を調べながら,2009年に予想を提出して以来この方面で進展してきた研究成果を取り入れつつ,j-関数の実二次点での値についての研究を進める.今後はさらに,モジュラー結び目という位相的,数論的,力学系的対象を通し,従来の視点を大きく広げて,実二次体や不定値二次形式の数論に資する数論的不変量を取り出していくような研究を進める.Klein群の保型形式にまで枠組みを広げていくのも,未知の分野への探求であり,大変興味深い方向であると考えている.松坂俊輝,水野義紀,Don Zagier らとの議論を活発に行いながら方向性を探っていく.水野義紀がその後行ったHirzebruch 和と類数の関係を,本研究の視点から解釈,拡張することが出来れば面白いと考える.今一度これまでの古典的な成果を見直すことから始め,研究をすすめていく.Caliber についての研究は,余り多くの研究者が取り組んでいない分野でもあり,まだまだ発展させる余地がある.モジュラー関数との関連を見出すべく,関連研究者と議論を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響により,研究集会がことごとく中止,またはオンラインとなったのが最大の理由である.研究打ち合わせも,出張の制限により,延期,オンラインでの打ち合わせを余儀なくされ,予算を必要とする機会が格段に減った. 次年度,状況が許せば,松坂俊輝や水野義紀らとの議論のための旅費に予算を使用,また,外国渡航が出来る状況にまでなれば,Don Zagier や Ken Ono との議論のため,ドイツやアメリカに渡航もしくは招聘を行う.また,研究補助のためにポスドクを時間雇用することも視野に入れる.
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