1980年頃、多様体の一般化としての可微分構造をもつ空間のアイデアが現れた。 まず K. T. Chen がその多重経路積分(iterated path integral)の理論の背景となるべきアイデアとして可微分空間(differentiable space)を定め、ほどなくして J. M. Souriau により、より洗練された微分空間(diffeological space)のアイデアが提出された。これらのなす圏はどちらも巨大なもので、多様体の圏をその充満部分圏としてもつと同時にすべての位相空間からなる圏をも部分圏としてもつ。同時に非常に強力なもので、ホモトピー論でもさかんに使われる limit や colimit に関して閉じていると同時にデカルト閉圏としての構造をもつ。本研究はこの圏にホモトピー論の手法を持ち込み、微分位相幾何学とホモトピー論の融合を目指した。 まずオリジナルの微分形式を用いては滑らかな単位の分割の存在が保証されない為に de Rham の定理が導かれないが、ここに新しい微分形式を定めて滑らかな単位の分割の存在を仮定せずにこの新しい微分形式について de Rham の定理を証明した。さらにこの事実を用いて、滑らかなCW複体に対してはオリジナルの de Rham の定理が成立することを示した。 次に経路についてもそのA∞構造を解析する為に、時刻が 0 以下または 1 以上において動かない経路のみを考察することで、経路の結合が(微分空間を reflexive なものに制限した場合に)滑らかに行われることを示した。さらに一般の微分空間においても、経路の結合に若干の余裕を持たせることにより経路に対するA∞構造が滑らかに与えられることを示した。 さらに滑らかなCW複体の定義を見直し、すべての多様体が滑らかなCW複体となる新たな定義を与えた。
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