研究課題/領域番号 |
18K18715
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
赤木 剛朗 東北大学, 理学研究科, 教授 (60360202)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 非整数回微分 / 非線形問題 / 発展方程式 / 異常拡散 / 多重スケール構造 |
研究実績の概要 |
昨年度に取り組んだ Brezis-Komura 理論の非整数階微分版に対応する一般論の構築を完成し, Israel Journal of Mathematics 誌に発表した. この論文は 70 年代から未解決だったある種の Integro-differential evolution equations, 特に通常の時間微分を非整数階微分に置き換えたものに対する適切性の問題を (特に強解の枠組みで)完全に解決するものであり, さらに非整数階微分の場合も, 解の平滑化効果がある程度実現することを示している. この結果は近年増加している非整数階時間微分を伴う非線形偏微分方程式の研究に於いて多くの応用が見込まれるものであり, 当該分野に於いて解析の基盤をなすものである. また同方程式の解の漸近挙動について考察を始め, 特に(複数の定常解が存在することになる)非凸なエネルギー汎関数に対する解の収束性の問題に着手した. この問題は当初計画の範囲を超えるものだが, 研究計画の延長としては妥当なものであり, 古典的な発展方程式の研究ではよく研究されているテーマである. 一方, 時間微分を非整数階微分作用素に置き換える場合は軸となる議論を改める必要がある. ここでは Lojasiewicz-Simon 不等式を利用した議論を念頭に置き, 幾つかの有用な知見は得られたものの, 解決には至っていない. 次年度以降, 研究を進め解決を目指す. またこの問題が解決すると, 定常解の安定性解析に対しても展望が開けるため, 重要な課題である. さらにエネルギー汎関数の仮定を弱める試みにも取り組み, 特に解の爆発現象を容認するような時間局所解しか期待できないような枠組みへの拡張を行い, 予備的な結果を得ている. しかし仮定が満足な形にはなっていないため, 抽象論としてさらなるブラッシュアップが必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では非整数階微分に対する作用素論的な扱いを整備することを目的としていたが, 予定外に研究が進み, これまで未解決になっていた (非線形方程式に 対する) 近似解の極限の特定が解決し, Brezis-Komura 理論の非整数階微分版に対応する一般論の構築という長年の未解決問題を解決した. これによって当初, 研究計画で予定されていた最も重要なパートは解決している. また既存の研究の整理も進んだため, 「研究の現在地」が明らかになり, 当初の予定になかった幾つかの課題が浮上した. 現在はそれらに取り組んでいる最中である.
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今後の研究の推進方策 |
派生する課題として浮上した解の漸近挙動の分析, ならびにエネルギー汎関数の仮定の一般化が今後の課題となる. 前者に対しては Lojasiewicz-Simon 不等式を用いた議論を非整数階微分を含む発展方程式へ適用する方向で研究を進める. ここで本研究課題で開発した非整数階微分に対する連鎖律が役立つと思われる. 一方, Lojasiewicz-Simon 不等式を用いた解の収束性の証明には, 発展方程式の形状が重要であり, ここで扱うような非整数階微分を含む非線形発展方程式に対しては根幹をなす議論を見直す必要がある. そのため, ここではその大筋の検討から始める. またこの問題に関しては Lojasiewicz-Simon 不等式の研究で業績を挙げている Ralph Chill(ドレスデン工科大学)と議論を行っており, 今後も同氏と情報交換しながら研究を進める. 後者に関しては古典的な発展方程式の研究が参考になると思われる. すでに予備的な結果は出ているが, 一般論として仕上げるには設定や仮定の置き方を精査する必要があり, それらに引き続き取り組む. またここで得られた結果を非整数階微分を含む非線形偏微分方程式の問題へ応用し, 解析の基盤を整備する. さらにそれに基づき, 個別の方程式の解析を進める. また半離散化は数値解析の観点からも重要なアプローチだが, 非整数階微分を含む発展方程式については整備が進んでいない. これらを関数解析的な観点から整備することは重要な問題と言える. 今後はそれに対しても取り組む. Chill 氏をはじめ国内外の関連分野の研究者と連絡を取り, 必要に応じて現地へ赴いて直接情報交換や議論を行う. また研究集会等でも情報発信に務め, 研究成果の周知を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に新型コロナの問題で幾つかの研究集会がキャンセルになったこと, また国内外への研究出張がキャンセルになったことによる. 現在も新型コロナの問題が解決せず, 出張はできない状態が続いているが, これが解決し大学からの許可が出れば, 研究出張から再開する. 特にドイツ・ドレスデン工科大学の研究者招聘をキャンセルした分は, 先方と相談し, 可能な限り早期実現を目指す. その後, 国内で開催する予定だった国際ワークショップに関して, 参加予定者と相談し, 実現に向けて検討する. ただし, 海外出張や海外からの研究者招聘に関しては新型コロナの感染リスクが生じないことを十分に確認し, また所属機関の方針を確認の上, 実施することとする. なお実施が困難な場合は, 遠隔通信で部分的に実施の可能性についても検討する. ただし完全な形での実施は困難であるため, いずれにせよ出張・招聘は必要になると思われる.
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