予定されていた研究課題の解決は既に完了していたが、2022年度は新型コロナ等の影響で延期していた海外の研究協力者の訪問を実施し、これまでに得られた研究成果について説明した。さらに派生研究や将来的に扱うべき課題について意見交換を行った。研究期間全体を通して得られた主な成果は以下のとおりである。 (1) ヒルベルト空間における凸型エネルギー汎関数に対する非整数階微分を含む勾配流型発展方程式の一般論構築 ここでは非整数階微分を含む非線形発展方程式として、ヒルベルト空間における凸型エネルギー汎関数に対する勾配流型の非整数階発展方程式を考え、その適切性を証明した。この結果は非整数階時間微分を含む退化・特異拡散方程式等へ応用可能である。これらの方程式は解の漸近挙動が研究されていた一方、解の存在は未解決問題として残されていた。ここで構築した一般論は同分野の基盤となるものであり、今後、さらなる応用が期待される。実際、既に海外の研究者によってここで得られた結果に基づく応用研究が多数始まっており、その波及効果が確認されている。 (2) 有界領域に於ける分数冪ラプラシアンを含む Cahn-Hilliard 系の解の漸近挙動の解析 有界領域に於ける分数冪ラプラシアンを含む CH 系の研究は報告者らの結果(2016)が先駆けとなるものであったが、解の漸近挙動の研究は未着手となっていた。その一因としてC^2級のポテンシャルと分数冪ラプラシアンに対する Lojasiewicz-Simon 型の勾配不等式が証明されていなかった点が挙げられる。ここでは同不等式を証明することで定常解への収束を証明した。領域上の分数冪ラプラシアンでは定常解の境界正則性が低下するため、古典的な LS 不等式の証明法が適用できなかったが、ここでは特殊なノルムを導入することでその点を克服している。さらに CH 系に適用できるよう一般化した。
|