研究課題/領域番号 |
18K18717
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
志賀 啓成 京都産業大学, 理学部, 教授 (10154189)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 正則運動 / 擬等角写像 |
研究実績の概要 |
本研究課題の主たる対象は正則運動である。正則運動はリーマン球面上の集合の単射写像のある複素多様体をパラメーター空間とする正則族として定義される。 このときBers-Roydenの定理もしくはその一般化から、パラメーター空間の各点のある近傍に制限すればそれはリーマン球面全体の正則運動として表現されるこ とが知られている。特にパラメーター空間が複素平面上の単位円板であるときには、Slodkowskiの定理から単位円板全体をパラメーター空間とするリーマン球面 の正則族として表現される。この結果がどのような複素多様体にまで拡張できるかというのが本研究課題のテーマである。 本年度は正則運動の拡張可能性についてのChirkaの主張の反例を与え、さらにある種の位相的な自明条件を満たしていても、全平面の正則運動に拡張できない例を与えた。 また,種々のカントール集合の擬等角同値性を考察し、一般化されたカントール集合が擬等角同値な場合にその最大歪曲度を評価した。異なるカントール集合でも,擬等角同値であれば、その二つのカントール集合の間には全平面の正則運動が存在することを示しており、この分野に新たな研究道具を与えるものになっている。特に、ショットキー群の極限集合と双曲複素力学系のジュリア集合の間の擬等角同値性は無限型Riemann面の間の正則運動にも繋がり、今後の進展が見込まれると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に研究代表者は様々なカントール集合の擬等角同値性を発見した。このことにより、これらのカントール集合同士がリーマン球面の正則運動によって写りあうことが直ちにわかるが、本年度はさらに一般化されたカントール集合が擬等角同値な場合に、その最大歪曲度を評価した。擬等角写像の存在は正則運動の存在とほぼ同値であり、最大歪曲度は正則運動のパラメータ空間の小林距離と密接に結びついていることが、Bers-Ryodenの考察から知られている。このことと、一般化されたカントール集合の確率論的視点から捉えることができることを鑑みると、新たな研究方向の可能性が見られると考えている。 さらに、今年度得られた正則運動に関するChirkaの主張の反例は、正則運動の拡張可能性についての障害の理解を深めるもので、今後のこの問題を考える指針の一つになると期待している。 以上の状況から、研究の進捗状況は順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究の成果を踏まえて、正則運動の様々な性質を研究し、さらにその一般化への試みを行う。具体的には領域の一般化、例えばRiemann面上の集合の正則運動などについて考察する。これはM. Bonkらの擬対称性についての先行研究と結びつくものと期待され、彼らの理論への応用も視野に入れたい。また、これらの概念はタイヒミュラー空間などの理論と密接に結びつくものであり、これらの研究との関連性も常に意識して進める。 そもそも、正則運動は平面領域の一次元複素力学系の安定性に端を発した理論である。したがって、Riemann面の集合にその理論の拡張を見いだすのは自然である。そのための道具として上述のM.Bonkらの擬対称性の理論を考えたい。以上の研究を遂行するため、国内外の関連するセミナー、研究集会を通して関連分野の研究者と研究交流を行い、アイディアの研鑽を図る。今年度も関連するリーマン面とタイヒミュラー空間の国内外の研究集会に参加して、この分野の第一線の研究者と討論を行う。また、研究成果発表や研究打ち合わせを国内外で積極的に行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
正則運動の高次元化にあたって、多重調和関数の境界条件の考察が障害となることがわかり、これについて考察する必要が生じ、予定していた研究に派生したRiemann面上の正則運動に対する研究を行なった。そのための経費に減額が生じた。次年度はこの方針に沿って研究活動を行う予定である。もう一つの理由は、1月に上海の復旦大学から研究者を招聘する予定であったが、先方の都合で取りやめとなった。次年度は再度交渉して招聘または研究交流に使用する予定である。
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