研究実績の概要 |
研究課題で取り上げた内容のうち, 定数のlead/lagが存在する確率過程の設定の定式化においてはOksendal, Russo, Vallois 等によるForward Integralによる定式化によって最も簡単な場合のモデルを得た. これは, 3次元標準ブラウン運動 (B_0(t), B_1(t), B_2(t)) とこれらから定まる B_h(t)=(B_0(t-h), B_1(t), B_2(t)), H_1(t)=ρ_1B_0(t)+π_1B_1(t), H_2(t)=ρ_2B_0(t-h)+π_2B_2(t) を考え, 二つの資産 S_1(t), S_2(t) がそれぞれH_1(t), H_2(t) を用いたBlack-Scholesモデルとなっているというものである. ここで注意するべきはH_1(t)はこの標準ブラウン運動に伴なうフィルトレーションの下でブラウン運動であるが, H_2(t)はそうではない(セミマルチンゲールにならない)ということである. 従ってこの設定ではS_2(t)は通常の伊藤積分では定義されない. ここでこれを定式化するためにこれをH_2(t)によるforward integral(非因果的確率積分)であるとするとS_1(t), S_2(t) による自己調達戦略を定義することができる. 具体的にはLevyの確率面積がこの自己調達戦略そのものになる. このモデルの下ではこの戦略の期待値が0にならず, 数理ファイナンスの基本原理である無裁定条件が成立していないことを確認した. またこの戦略の期待値を計算すればlead/lag h を検出することが可能であることが示唆されるが, これを数値実験によって一部確認した.
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今後の研究の推進方策 |
実証面においては金融市場における高頻度取引のデータを用いて, 我々の定式化から得られる確率過程を用いて実際に無裁定条件が崩れている局面を検知することができるかどうかを検証したい. 高頻度取引を対象とするのは, 市場の流動性が極めて高く, ここに僅かでも非自明な裁定が観測されればその実務的意義が極めて高いからである. 理論面においては lead/lagモデル以外にこのように資産過程の確率面積が偏るようなものを考えられないかに興味がある.
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